ボレロ - 第三楽章 -



テーマの提案者は持ち回りと決めた。

生まれ月の順としたため今夜は狩野が提案者だったが、何を思ったかここにきて議題を替えたいと言い出した。

テーマが決まるとメンバーに事前に知らされる。 

「余暇とは何か」 と自分なりに論理を構築して今日の席にのぞんだ。 

とはいえ、別段反対する理由もなくテーマ変更に賛成したのだが、狩野の目は私に向けられたまま止まっている。

私に苦情でもいいたいのだろうか。



「今回のテーマは ”友人の危機を救え” とする」


「はぁ? 友人って誰だよ」


「近衛、おまえ、また難題を抱え込んでいるそうだな」


「なんのことだ……」


「隠すな。とっくにバレてるよ」


「何がバレてるって……」



知弘さんが狩野に相談するはずはなく、珠貴が言うはずもない。

わざとかまをかけているのかと警戒し、言葉を控えた。



「宗一郎さん、悩みを溜め込むのは体に悪い。吐き出した方が健康的だと思います」


「特に悪いところはありませんよ」


「そうか? 弁護士に相談するほどの問題があるのに、悩みがないとは言わせないぞ。 

近衛、正直に言えよ」


「知的所有権の専門家が必要だってね。

知的所有権といえば、著作権、発明、アイディア、ほかには……

体のことなら何とかなるが法律は専門外だ。僕には思いつきませんね」


「近衛君に関係するなら特許かな。企業間のトラブルは少なくありませんからね」


「さすが霧島君、的が絞られたな。特許か、だが俺にもわからん」



みなの掛け合いにダンマリを決め込んでいたが、この話題に絡んでこない人物がいることに気がついた。



「平岡!」


「すみません。先輩から頼まれたので、みなさんに相談したんです。

そんなに睨まないでくださいよ。

知的所有権に詳しい弁護士を探してくれって言われても、漠然として僕も困って……

先輩の名前は出すなっていうし、具体的なことは教えてくれないし、探しようがないじゃないですか」



知り合いに聞いてみますと、平岡が弁護士探しを引き受けてくれたので安心していたが、よもや倶楽部のメンバーに相談するとは思わなかった。

ため息をつく私を 「さぁ、白状してもらおうか」 と言うように4人の顔が覗き込む。

これ以上の言い逃れはできないと観念した私は、ここだけの話にして欲しいと念を押して話をした。

最初こそフィルターにかけた部分もあったが、聞き上手な沢渡さんに促され、私と珠貴の間に起こった新たな問題を洗いざらい吐き出していた。



「そういうことか。平岡から話を聞いておかしいと思ったんだ。 

近衛ほどの会社なら、各専門分野の弁護士抱えているはずなのに、どうして内々に依頼するのか、そこがわからなかった」


「丸田会長に気づかれないために、顧問弁護士に相談するのを避けたのか。

近衛君らしい気遣いだね。

しかし、それでは平岡君は困るでしょう。目的がわからないのでは依頼のしようもない」


「霧島先輩の言うとおりですよ。だから、倶楽部のみなさんに相談したんです 。

僕だけ責めないでくださいよ。元はと言えば、ハッキリ言わない先輩が悪いんですから」


「わかった、わかった。悪かったよ」

  

味方を得た平岡は急に態度が大きくなり、それはそれで腹立たしくあったが、今は私に勝ち目はなさそうだ。

ここは素直にみなに協力を求めることにした。

有能な弁護士を知らないかとあらためて聞くと、沢渡さんと霧島君から好感触の返事をもらった。

急ぎ連絡してみると二人が言ってくれたことで、ひとまずの心配の種は消えた。

それだけで、今日ここに来た甲斐があったというものだ。


私のことで脱線してしまったが、夜はまだ長い。

本来の討論に戻るつもりでいたのだが 『アインシュタイン倶楽部』 のメンバーはそれでは納得しないらしい。

「友人の危機を救え」 のテーマは、いつの間にか  「昭和織機の丸田会長を、いかにして窮地に追い込むか」 に変更され、私をそっちのけで熱心な意見交換が始まっていた。