「お名前は決まってるの?」
「冬の真と書いて ”とうま” と呼ぶ名前にした」
珠貴の問いに知弘さんが、用意していた命名書を広げて見せてくれた。
「冬真……須藤冬真、いいお名前ね」
「冬の字を入れたくて考えたのに予定日を過ぎても生まれなくて、春になるかと思ったわ」
「もう少しで、春真 (はるま) になるところだったな」
「ホント、でもよかった……4年に一回のお誕生日ですけどね」
名前の話をするうちに冬真も慣れてきたのか、泣くことなく母乳を飲みはじめた。
しばらくそこにいたが、知弘さんに目配せして珠貴を残して病室を出た。
「どうですか、父親になった感想は」
「自分では、もっと冷静に受け止めるだろうと思ってたんだ。
ところが生まれてきた子を目の前にしたら、わけもなく涙が出てきた。
分身がここにいる、そう思ったらたまらなく愛しくてね。やっと父親になった実感がわいた。
それにくらべて静夏は、生まれた瞬間から母親になっていたよ。女性はすごいね」
「貫禄が出ましたね。もともと物事に動じないヤツだったのが、出産してますます貫禄が備わったというかな。
なんだか偉そうにしてるじゃないですか」
「ははっ、兄貴の目にはそう映るのか。まぁ、男と女の違いだろうね」
ところで……美作さんが絡んでるとは少々厄介だな、と知弘さんから話の先を変えてきた。
おおよその内容は事前に話しておいたため話が早い。
珠貴と私へそれぞれ縁談を持ち込んだ丸田会長は、ただのおせっかいで動いたのではないだろうというのが、私と知弘さんの見解だった。
「丸田会長の意図はどこにあると思いますか」
「うーん……長年保たれてきた均衡が崩れつつある 『SUDO』 が突出することに危機感があるんだろう。
それもこれも、僕と静夏の結婚が引き金だと思うけどね」
「業界トップを走る 『SUDO』 が、らに躍進するのではないかと危惧しているのでしょう。
俺と珠貴のつながりが表面化したことで、さらに焦燥感を覚えた。
近衛が 『SUDO』 と提携しているのではないかと、彼らは懐疑的になっているのかもしれませんね」
「それだけじゃない」
「というと?」
知弘さんは私が初めて耳にする話をはじめた。
開発室の主要メンバーと取締役だけが知ることで、珠貴も知らないそうだ。



