ボレロ - 第三楽章 -



「お名前は決まってるの?」


「冬の真と書いて ”とうま” と呼ぶ名前にした」



珠貴の問いに知弘さんが、用意していた命名書を広げて見せてくれた。



「冬真……須藤冬真、いいお名前ね」


「冬の字を入れたくて考えたのに予定日を過ぎても生まれなくて、春になるかと思ったわ」


「もう少しで、春真 (はるま) になるところだったな」


「ホント、でもよかった……4年に一回のお誕生日ですけどね」



名前の話をするうちに冬真も慣れてきたのか、泣くことなく母乳を飲みはじめた。

しばらくそこにいたが、知弘さんに目配せして珠貴を残して病室を出た。







「どうですか、父親になった感想は」 


「自分では、もっと冷静に受け止めるだろうと思ってたんだ。

ところが生まれてきた子を目の前にしたら、わけもなく涙が出てきた。

分身がここにいる、そう思ったらたまらなく愛しくてね。やっと父親になった実感がわいた。

それにくらべて静夏は、生まれた瞬間から母親になっていたよ。女性はすごいね」


「貫禄が出ましたね。もともと物事に動じないヤツだったのが、出産してますます貫禄が備わったというかな。 

なんだか偉そうにしてるじゃないですか」


「ははっ、兄貴の目にはそう映るのか。まぁ、男と女の違いだろうね」



ところで……美作さんが絡んでるとは少々厄介だな、と知弘さんから話の先を変えてきた。

おおよその内容は事前に話しておいたため話が早い。

珠貴と私へそれぞれ縁談を持ち込んだ丸田会長は、ただのおせっかいで動いたのではないだろうというのが、私と知弘さんの見解だった。 
 


「丸田会長の意図はどこにあると思いますか」


「うーん……長年保たれてきた均衡が崩れつつある 『SUDO』 が突出することに危機感があるんだろう。

それもこれも、僕と静夏の結婚が引き金だと思うけどね」


「業界トップを走る 『SUDO』 が、らに躍進するのではないかと危惧しているのでしょう。 

俺と珠貴のつながりが表面化したことで、さらに焦燥感を覚えた。

近衛が 『SUDO』 と提携しているのではないかと、彼らは懐疑的になっているのかもしれませんね」


「それだけじゃない」


「というと?」



知弘さんは私が初めて耳にする話をはじめた。

開発室の主要メンバーと取締役だけが知ることで、珠貴も知らないそうだ。