居並ぶ新生児を目の前にして 「静夏ちゃんの赤ちゃん、この中で一番可愛いわね」 とささやいた珠貴へ
「俺には、どの顔も同じに見えるけどね……」 と彼女の身贔屓に苦笑しながら返事をした。
夕方近くの新生児室の廊下はことのほか込み合っていた。
赤ん坊の父親らしき男性が二人、どちらもガラスに顔をこすり付けんばかりに部屋の中を覗き込んでいる。
横には男性の親の世代の夫婦が数組、珠貴の言葉と異口同音のセリフを並べながら孫自慢の真っ最中だ。
生まれて間もない子の顔はさして変わりない造りなのに、目がどうだ、鼻がどうだ、誰それに似ていると、真剣に言い合っている姿は、はたから見る限り滑稽にしか思えない。
などと冷めた目で眺めながら、そういう私も実のところ ”コイツ、ひときわ目を惹くな。なかなかの顔をしているじゃないか” と思いながら、さりげなく誕生三日目の甥っ子に目は釘付けになっていた。
赤ん坊の顔を ”端正な” と形容するのはそれこそ滑稽かもしれないが、目を閉じた顔はきりりと引き締まり、ほかの赤ん坊の頼りなさとは異なっている。
将来なにかをやってくれそうな面構えだ……とそこまで考えて、私も相当な身贔屓だと気がついた。
「そうやって並んでると、我が子を見に来た夫婦みたいだね」
「知弘さん」
私たちに声をかけながら、その場にいた面々にも軽い会釈を忘れない。
ガラスに張り付いている父親たちより年齢が多少上であるためか、知弘さんにはすでに父親の風格がそなわっている。
「おめでとうございます」 と口々に祝いを述べる私と珠貴に、 「ウチのぼうずは寝てばかりだ。顔を見に来ても楽しみがない」 と余裕の発言で、けれど、ガラスの向こうの我が子へチラッと目を向けた顔は、喜びを隠し切れない表情を含んでいた。
「静夏ちゃん、お体は?」
「順調に回復しているよ。二人が来るのを楽しみに待ってる。案内するよ」
先に歩き出した知弘さんは 「千客万来でね……」 と、昨日と今日の見舞い客の名前をあげていく。
それによると、両家の両親は日参しており、近衛の大叔母や潤一郎たちもすでにやってきたようで、君たちが最後だと言わんばかりだ。
予定では昨日の夕方来るつもりでいたが、私の仕事の都合で予定を変更した。
珠貴に先に会いに行くように勧めたが 「一緒に行きたいから」 と言われ、今日そろって出かけてきたのだった。
病室に一歩踏み入れ、まず部屋の様子に圧倒された。
いまどきの産婦人科の病室というのは、どこも似たようなものらしいが、ホテルの一室と見紛うばかりのしつらえは、
ベッドがなければ病室であることを忘れてしまいそうだ。
そのほとんどが個室で、家族のためのベッドも用意されている。
知弘さんは昨夜もこの部屋に泊まったそうで、明け方の授乳のときの泣き声に起こされて寝不足だよと、顔をしかめながらも嬉しそうだ。
静夏の顔には、まだむくみが残っているが晴れ晴れとした様子で、珠貴を相手に 「出産の大変さ」 を力説している。
ほどなく、看護師に抱かれた赤ん坊が登場すると、部屋の中は一気ににぎやかさを増した。
「宗、抱いてみる?」
「いい、遠慮しておく」
いいと言うのに 「ほら、宗一郎おじちゃまよ」 などと、余計なひと言を添えながら、静夏は私の腕に子どもを預けた。
小さな体はふにゃふにゃと頼りなく、けれど 「生きている」 と主張するように熱をもっている。
体重3キロというがこれほど軽いものなのかと驚き、生まれたての子どもを抱く責任からいらぬ力が入ってしまう。
抱き方が悪かったのか途中から大泣きされてしまい、小さな甥っ子を早々に静夏に戻した。
我が子を受け取ると 「お腹がすいたのね」 と言うが早いか、我々の目の前で胸をはだけ授乳を始めたのには驚いた。
恥ずかしいとか躊躇うなどの様子はなく、空腹を訴える子どもへひたすら関心が注がれている。
「この子、まだうまく吸えないのよ」 と豊満な乳房をさらしながら、懸命に母乳を与える姿は尊敬に値すると思うものの、妹の授乳風景を凝視することはできなかった。



