ねぇ……と言ったが、次の言葉を濁している。
「なんだよ、聞きたいことがあるんだろう?」
「宗の方はどうなったのかと思って……結歌とのお話は……」
「あぁ、あれは消滅した」
「お断りしたの?」
「いや、波多野局長が ”珠貴さんは娘の親しい友人です。
彼女と親しい方が娘の相手というのは、いささか……”
と理由をつけて、丸田会長に断ってくださった」
「そうだったの……」
よかった……と言いながら体を寄せてきた珠貴の肩を抱いた。
私と結歌さんがどうにかなるとは思ってはいなかっただろうが、それでも気になっていたのだろう。
「丸田会長にとって、俺の相手は誰でもいいようだ」
「どういうこと?」
「あるパーティーで、近衛宗一郎の縁談を頼まれたと言いながら、適齢期の娘を持つ親に誰彼となく接触していたそうだ」
「丸田会長が? ひどい……何が何でも私たちの邪魔をしたいのね」
「そのようだな。見境なしに選んだ娘を俺にあてがって、自分の地位を揺るぎないものにしたいんだろう。
あのじいさん、相当な狸だな」
「相手が狸なら、こちらは虎になるだけよ」
不敵な笑みを浮かべ私を見つめる顔は、甘えて寄り添いながら見上げる顔より艶があった。
彼女の中の闘志に火がついた。
一緒に戦っていける相手だと再確認した。
「須藤社長に報告したほうがよさそうだな」
「いえ、先に専務に話すわ。父とはまだ冷戦状態なの」
「そうか……わかった。近いうちに知弘さんに会えれば……」
そのときだった、私と珠貴の携帯がほぼ同時に着信を告げ、それぞれ応答していたが、前後して歓声をあげることになった。
電話は静夏の出産を伝えるものだった。
「静夏ちゃん、男の子ですって」
「うん。安産だったらしい、お袋の声が涙声だった」
「感激なさったのよ。知弘さんも声が震えてたわ……
おめでとうございます。宗もおじさまになったわね」
「そっちこそ、おめでとう。君はおばさんだろう、俺と一緒だ」
「いいえ、私は従姉妹です」
「あっ、そうか……けど、そんなのどうだっていい。
無事に生まれたんだ、とにかく良かった」
知弘さんと静夏の結婚で私と珠貴の関係は複雑になったが、ともかく新しい家族が増えたことは喜ばしい。
静夏と知弘さんの子どもはどんな顔だろうかと想像してみるが、まったく浮かんでこない。
だいたい生まれたばかりの子どもの顔など見たことがないに等しいのだから、想像のしようもなかった。
「知弘さんに、あかちゃんの顔を見においでと言われたけど」
「お袋にも言われたよ。今日は無理だが、明日か明後日なら」
「一緒に行ってもいいの?」
「もちろんだよ。そうだな……明日の夕方なら時間が取れる。
そのとき、知弘さんにも会って話をしよう」
新たな命の誕生で風が変わったのか、それまで滞っていた事柄が一気に前に進みだした。
『あなたが望む機会は、向こうからやってきます』
「言の葉」 がまた現実になろうとしていた。



