ボレロ - 第三楽章 -



狩野の動きは迅速だった。

私の話を聞きしばらく腕組みをしていたが 「わかった。こっちはまかせて

くれ」 そう言い残し部屋を出て行った。

ほどなく、狩野からホテル側の対策が伝えられた。

これからやってくる柘植さんと雅ちゃんのためにスタッフを配置し、ホテルの

通用門から客室へと案内する手はずだという。

また、二人が帰る際の経路も確保した、安心して任せろと狩野の言葉は力強

かった。

さらに、早朝密かに集まる数名のための朝食の手配もされていた。

極秘の会合であると伝えたためか、サービスは狩野が自らおこなうようだ。


最初に到着したのは漆原さんだった。

実際の雑誌を見せられ、あらためて怒りがこみ上げてきた。

テーブルに週刊誌を叩きつける私に、冷静な質問が飛んできた。



「柘植真貴子と小宮山雅の経歴を調べて、ひととおり頭に入れたんですが、 

宗一郎さんと彼女たちの接点が見つからない。

ふたりとは、どんな付き合いですか」


「柘植さんは社長の顔のほかに、ミニチュア家具のコレクターの

顔も持っている。コレクターの間では、かなりの有名人だよ。 

ある限定モデルを、柘植さんに譲ってもらうためにお会いした」 


「そんなところでつながりがあったのか…… 

それが ”年の差熱愛発覚” になるとは、でたらめもいいところだな」 


「発覚もなにも、お会いしたのはあの日だけなのに、

よりによって写真週刊誌なんかに。クソッ」



苦々しく言葉を吐き出した私に、そんなもんですよ運が悪かったとしかいいよ

うがないと、漆原さんに慰められたが悔しさは半減するどころか、ますますふ

くらんでいく。



「小宮山さんは妹の友人で、彼女のことは小さい頃から知ってる。 

妹の近況を聞くために会ったが、そのとき撮られたらしい。

会ったのも数年ぶりだ、親密交際などありえない」


「近況って、妹さんはどこに?」


「そうか。漆原さんは静夏を知らないのか……どこから話したらいいのか」



いまさら隠し立てすることもないだろう、いずれわかる事だ。

静夏が日本を離れて暮らしている事情を話して聞かせたところ、



「驚いた……それ、漏れたら大変じゃないですか!」



漆原さんからもっともな返事があった。



「小宮山さんの周辺を調べれば、静夏と親友だとわかるはずだ。 

静夏が俺の妹だとわかったら、次はどうすると思いますか?」


「近衛社長令嬢とはどんな人物なのか、交友関係も含めて調べるだろうな。

俺なら間違いなくそうする。 

そうなると、現在の様子にたどり着くのは時間の問題ってわけだ。

近衛宗一郎氏の実の妹が極秘出産のため海外に滞在中……

なんて事実をマスコミが知ったら大喜びだ。 

宗一郎さんの記事も吹っ飛ぶだろうな。相乗効果で雑誌の売れ行きは倍増だ」


「彼らの格好の餌食でしょうね……」


「これは聞いてもいいのかな。妹さんの相手は……

いや、これは聞かないほうがいいな。 

わざわざ海外で出産するんだ、結婚できない相手だってのはわかりますから」



彼に教えてもいいものか迷い、相談するように珠貴の顔を見ると、私に向かっ

て小さくうなずいた。