「近衛さんから珠貴さんにお渡しくださいね」 そう言葉を添えて、柘植さんから指輪が渡された。
珠貴はどんな思いでミニチュア家具の中に入れたのだろう。
同行者に見つからないよう細心の注意を払いながら、細工された空間に指輪を素早く忍び込ませるのは容易ではなかったはずだ。
受け取った指輪を見つめていたが、珠貴がおかれたであろう厳しい状況を思い、いたたまれず握りこんだ。
「ベッドルームコレクションは、小物を入れるシークレットボックスがあるのが特徴です。
このシリーズは量産されたもので、愛好家が欲しいと思うような珍しいものではありません。
こちらをあえて珠貴さんが選んだ理由は、シークレットボックスがあるからではないでしょうか。
贈る相手がボックスの存在を知っているのなら、その中へプレゼントを潜ませるというサプライズもあるでしょう」
「だが、隠されていたのは彼女が大事にしている指輪だった」
私の声に柘植さんはゆっくりうなずき、さらに……と、コレクターならではの知識と見解が続いた。
「コレクションのシリーズには、それぞれストーリーが設定されています。
ベッドルームコレクションは、少女たちがかくれんぼをして家具に隠れるという設定ですが、女の子のひとりが友人にクローゼットに閉じ込められるエピソードがあります」
「閉じ込められるんですか」
「はい。なんでも持っている友人を羨んで、つい意地悪をしてしまった……そんなストーリーです。
これは、珠貴さんからのメッセージではないでしょうか」
柘植さんの言葉にみな感心していたが、潤一郎だけは厳しい顔だった。
「警察を動かすには証拠が少ないな。現時点で身代金や、何がしかの要求もない。
珠貴さんの意思で同行した可能性も高い。だが、事件に発展するおそれは充分にある。
すぐに対応できるよう備えだけはしておく。そのつもりでいてくれ」
「わかった」
潤一郎は警察関係に深いつながりがあり、妻紫子の父は警察庁のトップであり、警視庁には叔父もいる。
彼らに協力を求めるのは難しいことではない。
しかし、できれば今回の件は公にしたくない思いが、私にも潤一郎にもあった。
内部の者が関わっている可能性が強いことと、珠貴の意思で行動した形跡があるためである。
「珠貴さんが友人と食事に出かけたというのは本当なんですか」
「紗妃ちゃんに確かめた。家族に友人と一緒だと告げているということは、自ら出向いた可能性もある」
「友人というのは、もしかしたら浅見さんかもしれません。浅見さんの現時点の所在はわかっているんですか?」
櫻井君の疑問を受け、それまで黙って控えていた堂本が前に出た。
「さきほど浅見さんに電話をしましたが通じません。もう一度かけてみましょうか」
「頼む。出なければ ”連絡が欲しい” と伝言を残しておいてくれ」
堂本に指示をしてから、私は知弘さんへ電話をかけ須藤家への連絡を頼んだ。
知弘さんならこちらの動きを知られることなく、珠貴の家族と接することが出来る。
確認するからしばらく待ってくれと知弘さんから返事があり、待つほどもなく折り返し電話があった。
『食事へ行くので遅くなると連絡してきたのは、珠貴ではなく浅見君だったそうだ。
行き先は聞いてはいないが、運転手がいるので心配いらないと思ったと、義姉が言っていた』
『運転手が珠貴をどこへ送っていったか、わかりますか』
『珠貴専属の運転手は急用ができ、浅見君に代わりを頼んで帰ったそうだ。
珠貴と一緒にいるのは、浅見君と考えて間違いないだろう』
『そうですね。須藤社長にも知らせた方がいいのではないでしょうか』
『うーん……もう少し様子をみよう。そちらにいきたいが、今夜はまだ予定が入っている。
わかったことがあれば、すぐに知らせてくれないか』
知弘さんとの電話を終え、みなに仔細を伝えようと顔を上げたが、各自忙しそうに動いている様子が目に入った。



