ボレロ - 第三楽章 -



部屋に着くと、平岡と蒔絵さんのほかに潤一郎が到着していた。

帰宅途中を平岡に呼び出されたそうだ。

ゆかに夕食はいらないと伝えたら、もっと早く連絡してと怒られたと苦笑いしていたが 、その顔に言葉ほど困った様子はなく 「先に品物を見せてもらったが」 とすぐに切り出した。



「メッセージカードを読んだが、これといって変わったところはない。箱の中もくまなく見たが何も見つからなかった」


「そんなことはない。これには何かメッセージがあるはずだ。絶対ある」


「僕も見ましたが、それらしき物は入っていません。包装紙の裏側まで見たんですよ。先輩も確かめてください」



言われるまでもなく着いた早々ミニチュアセットを探ったが、彼らが言うように何も見つからなかった 。

ミニチュア家具そのものに意味があるのだろうか ……

腕を組み小さな家具を睨むが想像もつかない。

遅れましたと言いながら沢渡さんが到着して、ほどなく櫻井君も姿を見せた。

まさか、また誘拐では……と、眉を寄せている。

櫻井君にとっても、昨年の珠貴の誘拐事件は苦い思い出につながっている。

その彼が 「あっ」 とはじけたように声をあげた。



「珠貴さんは誰かと一緒にいたはずです。ミニチュアを購入した店に問い合わせれば、一緒にいた人物のことがわかるかもしれません」



そうですねと言うが早いか、櫻井君は包みに貼られた伝票の送付元へ電話をかけた。

が……ほどなく暗い顔に戻り 「ダメでした」 と首を振った。

営業時間外のため、留守番電話になっていたそうだ 。

全員がまた腕を組み考え込んだ。



「ミニチュア家具に意味があるんだろうか」



さきほど思ったことを口にしたとたん、潤一郎が声をあげた。



「その可能性はあるぞ。詳しい人の意見を聞いてみよう。
専門家やコレクターをあたれば、何かわかるかもしれない。誰か知らないか」


「それなら柘植さんだ」


「そうだ! なぜ気がつかなかったんだ」



有馬総研を調べていた潤一郎は、柘植さんと面識があった。

潤一郎がさっそく連絡をとったが会議の最中とのことで、直接本人と話はできなかった。

しかし、緊急であると伝言したため、ほどなく柘植さん本人から折り返し電話が入った。 

潤一郎の端的な事情説明を聞いた柘植さんは、すぐに伺いますと返事をくれた。


柘植さんが到着したのは電話から40分ほどあとのことだった。

テーブルの上に並べられたミニチュア家具を見ると、柘植さんは迷わずベッドルームコレクションのひとつである クローゼットのミニチュアに手をのばした 。

彼女の手は小さなクローゼットの扉を開けると、さらにその奥の壁をコンコンと叩いた 。

わずかだが小さな物音がした。

確信を得たような笑みを浮かべみなの顔を見回したあと、クローゼット奥のつまみを引っ張り、中から何かを取り出すと手のひらにのせ我々の前に差し出した。

そこにいた者みなが一斉に驚きの声をあげた。

柘植さんの手の上に乗っていたのは、誘拐事件の際、珠貴がティーカップの底に沈ませ居所を知らせてきた、あの指輪だった