ボレロ - 第三楽章 -



いつもならウェイティングルームに通され食事の前のひと時を過ごすのだが、今日は少々趣向が変わっていた。

足を踏み入れた誰もが 「わぁ……」 と感激の声を漏らした店内は、普段の趣を変えていた。

クリスマスの装飾が施されているが、そのどれもが落ち着いた色合いで、煌びやかではないのに華やかさがある。

女性たちの口はステキ……といい続け、男たちはしきりに感嘆の声を漏らしている。

「どうぞ、お進みください」 と羽田さんに言われるまで、私たちはかたまりになったまま感動に浸っていた。


テーブルセッティングも凝ったもので、そこでも女性たちの口は忙しく動き、褒め称える評価に余念がなかった。

脇に添えられた箱に気がつき 「プレゼントまで用意してくださったの?」 と茶目っ気のある顔で羽田さんに聞いたのは美那子さんだ。

言葉を受け微笑んだ羽田さんは私と珠貴へ手を向け、みなの顔が手に促され私たちを見た。



「みなさんのおかげで無事に解決できました。ありがとうございました」


「私たちの気持ちです。気に入っていただけるとよいのですが」


「まぁ、ご丁寧にありがとうございます。おふたりも大変でしたのに……でも嬉しいわ」



テーブルに座った面々を見回すようにして美那子さんが告げると、そろったように一斉に顔がうなずいた。

あけてもいい? と聞いてきたのは紫子で、どうぞと言うと、女性たちは嬉しそうな顔で包みを開き始め、男たちも遠慮がちに箱に手をのばした。

珠貴が選んだプレゼントの品はローズ社の限定モデルのペーパーウェイトで、箱から出した品をそれぞれがテーブルの上におき眺めていたが、どれとして同じものはなくすべて異なるデザインである。



「限定品というのが魅力的だね」


「裏をご覧になって、ナンバーがついているわ」



狩野夫妻の言葉を聞き、友人たちは品を手に取り裏がえした。

「この番号だけで希少価値がわかるね」 と言ったのは沢渡さんで 「どこに置こうかな、書斎だね」 と霧島夫妻も楽しそうな顔だ。

「しかし、これだけの数がよく手に入りましたね」 と感心しながら聞いてきたのは櫻井君だった。



「柘植さんが、ローズ社のルートをご存知でしたの」


「さすが柘植さんだな。柘植社長はアンティークのミニチュア家具にも詳しい人でしたね。
珠貴さんが残したなぞを解いたのも柘植社長だった。僕もミニチュア家具を見たけど、まったくわからなかったな」


「あの仕掛けは愛好家にしかわからないだろう。宗が ”これにはメッセージがあるはずだ。絶対ある” と言い出したときは、何を言っているのかと思ったよ」



ペーパーウェイトを見ていた潤一郎の視線が、私へゆっくり向けられた。

そうだったなと言うように弟へ頷いてみせた。

あのとき……

ミニチュア家具には、珠貴からのメッセージが必ず隠されているのだと信じて疑わなかった。

それは、直感としか言いようがないものだった。