エレベーターから眼下に広がる街の灯りを眺めながらも、頭に浮かぶのは昼間の情景だった。
『娘を須藤の家からだすつもりはありません。それだけは承知しておいて頂きたい』
私が何を言おうとしているのかわかっていながら向けられた言葉だった。
珠貴を須藤の家から出すつもりはない、これだけは絶対に譲れないという強い気持ちが声から伝わってきた。
須藤社長の一言一句が 胸に重くのしかかる。
許さないと言われたわけではないのだから望みはあるのだと珠貴は言うが、私にはそうは思えなかった。
須藤家が珠貴へ期待していることも、跡を継ぐべき娘だと言うことも重々知った上で、須藤社長に申し出るつもりでいた。
多少の反対は覚悟していた、認められないと言われることも予想していた。
それでも、これまで私が須藤社長と築いた関係が、父親の固い心を溶かしてくれるのではないかと甘い期待があった。
そして、甘い期待は見事に跳ね返された。
到着を知らせる音がエレベーター内に響く。
いつものように 『シャンタン』 へ向かう際の高揚感はわいてこない。
一度断られたくらいでこの落ち込みようとは、なんとも情けないものだ。
両手で頬を叩き気合を入れた。
難題は明日考えよう。
開きかけた扉を見つめながら、気持ちを奮い立たせるように拳を握り締めた。
開いた扉から外へと出ると賑やかな友人たちの声にむかえられた。
「やっとお出ましだ。遅いぞ」 と、いつの間に仕事を終えたのか先に到着していた狩野の声に続き、次々と友人たちから声がかけられ、沈んでいた気分がいくぶん上昇してきた。
ロビーには親しい顔がそろっていた。
沢渡夫妻は相変わらず仲が良く腕を組んで私の前に現れ 「今夜は楽しみましょうね」 と美那子さんの
明るい声に気持ちが和んだ。
結婚したばかりの霧島君と美野里さんも寄り添っているが、並ぶ姿が初々しい。
忙しく出席できるかわからないと言っていた潤一郎の顔もあり、私の顔を見つけると紫子とふたりで手を挙げて合図を送ってきた。
幹事を引き受けてくれた平岡と蒔絵さんは、友人たちの間をまわり忙しそうだ。
狩野は佐保さんにたしなめられながらも娘自慢に忙しく、親馬鹿な顔を隠そうともしない。
入り口付近に遠慮がちに立っているのは櫻井君で、となりにいる暗い表情の浜尾君見守る目が印象的だった。
信頼していた部下が引き起こした騒動の結末は、浜尾君に重い影を残していた。
部下の不穏な動きを見抜けなかった、自分にも責任があるのだと浜尾君は自分を激しく責めていたが、ここにいる誰もそんなことは思ってはいない。
浜尾君に元気を取り戻して欲しいと願う顔ばかりだ。



