三枚目の相手は珠貴だった。
「これは、あなたのマンションの近くね……」 と、珠貴が苦しそうな声で画
像から場所を割り出した。
二人の意外な関係というのも事細かに書かれていたが、どこの誰の証言か、
でたらめだらけの証言だった。
こちらも知らない 「近衛さんの親しい友人」 の話だから、ウソに決まって
いるのだが……
あまりに馬鹿げた内容であり、ため息も出てこない。
朝のまどろみも、気だるい甘さも、胸くそ悪い記事のせいで一気に吹き飛
んだ。
『今日の発売だ。とにかく早く彼女たちに知らせて、
マスコミ対策を立てる必要がある』
『柘植さんと小宮山さんに、これから連絡します。
まずは……何を言われても無言を通すようにと伝えるつもりですが、
ほかにありますか』
『電話より、直接会って話したほうがいいと思うな。
口を閉ざすのが一番の防衛策だが、ただ黙ってろってのはキツイからね。
もっとも信頼できる人と、口の堅い人を周囲において守ってもらう事。
憶測記事を載せた週刊誌に苦情を言いたいだろうが、そこは我慢してもらって。
それと、そうだな……
俺、そっちに行きます。現物を見てもらったほうがいいですね。
珠貴さんも、そこから動かないように。で、おたくら今どこにいるの?』
『榊ホテルにいます。部屋は以前と変わってないので、直接来てください。
狩野に話を通してきます。それと、写真の彼女たちにも来てもらいます』
これまでも何度か漆原さんの力を借りる機会があり、打ち合わせとしてこの
部屋を使ったため、彼は私専用の部屋の存在を知っていた。
『榊ホテル東京』 はマスコミ対策に厳しいことで知られているが、カメラマン
でありルポライターでもある 「漆原琉二」 は、このホテルに自由に出入り
できる、マスコミ業界唯一の人物だった。
『了解、俺もこれから出ます。時間との勝負ですからね。
狩野さんのホテルなら大丈夫と思っているかもしれないが、
マスコミを甘く見ちゃいけない。
あっ、俺が言わなくても宗一郎さんはわかってるだろうけど』
『わかってますよ、嫌というほど身にしみたからね』
じゃぁ、あとで、と力強い声がして、漆原さんは電話を切った。
ふぅ……と大きく息を吐き呼吸を整える。
これから大変な事態が起ころうとしていた。
避ける事のできない、面倒なことが待っている。
絶対に乗り越えるぞ、という気持ちで拳を握り締めた。
一点を見つめたまま立ち尽くした私のそばに、珠貴が歩み寄ってきた。
無言のまま彼女の肩を抱いた。



