漆原カメラマンとは妙な縁で繋がっていた。
私を執拗に追いかけるカメラマンだった彼を助けたのをきっかけに、私と彼の
間に奇妙な信頼関係が生まれた。
鋭い視線で場面を切り取るカメラの腕はもちろん、ペンの腕もなかなかのも
ので、彼のカメラとペンは私の強い味方となり、今は私と珠貴の理解者であり、
協力者になってくれている。
協力者といえば聞こえはいいが、いうなれば持ちつ持たれつであり、彼の方が
いくつか年上だが、立場としては対等な関係を保っている。
そのときどきで、丁寧だったり、ぶっきらぼうだったりで、漆原さんの話しぶ
りは一定ではないが、珠貴に対してはどうしてか丁寧な口調を崩す事はな
かった。
などと、漆原カメラマンとのつながりを思い描きながら添付ファイルを開いた
とたん、私の体は怒りであふれた。
『これはなんだ!』
『だから言ったでしょう、一発で目が覚めるって。
「近衛ホールディングス、スドウと合併」 と載ってるが、
珠貴さんの会社と合併はありえないって聞いてたんで、
これはおかしいと思った。
写真誌の三枚は明らかに盗撮だが、どこで撮られたのか覚えは?』
『そこに書かれた 「スドウ」 は他の会社だ。珠貴の会社と関係はない。
この彼女たちとの写真はなんだ。どうしてこんなことになるんだ。
密会だと? 笑わせるな!』
『怒鳴ってる場合じゃないでしょう。
まずは関係者に知らせて、早く対応策をねったほうがいい。
珠貴さんをにも電話したんだがつながらない。
彼女に知らせてもらえませんか。先に、珠貴さんの目に入ったら大事だ』
『珠貴なら、ここに一緒にいる……』
『あっ、そういうこと。心配して損したな』
彼の言葉に一瞬ムッときたが、言い返すのをとどまった。
珠貴を心配してくれたから連絡を取ろうとしたのであり、それが、私と一緒だ
と聞いて安堵した思いが彼らしい皮肉の一言になったのだから。
スキャンダラスな記事が出た場合、大きく傷つくのは女性側だ。
もちろん男側もマイナスを背負うが、その後の働きや活躍で、いくらでも評判
は回復できる。
けれど女性側は、なにかにつけ 「あのときの……」 と噂が付きまとい、
いったんまとわり付いた悪い噂を払拭するのは難しいのだと、漆原さんに聞い
たことがある。
私の声があまりにも大きかったため、珠貴も目が覚めたようだ。
電話のやり取りから、ただ事ではないと察知した顔が私を見つめている。
目覚めた彼女に 「おはよう」 を言う前に、送られてきたファイルを見せ
ると、たちまち顔色が変わり険しい表情になった。
漆原さんから送られて来た週刊誌の写しは、私と珠貴を凍りつかせるに充分な
内容だった。
企業合併を扱った記事は、どこから情報が漏れたのかわからないが、かなり
正確だった。
だが、その中に、読み手に誤解を与えかねない記載があったのだ。
『近衛ホールディングスが合併を進めている数社が明らかになった。
現在のところ 「トーキ」 「ダイオウ」 「スドウ」 の
三社に狙いを定めている。副社長 近衛宗一郎氏が中心となり……』
記事にある三社との合併を進めているのは間違いないが、それらの本社ビルの
画像の一部に誤りがあった。
「スドウ」 の本社ビルとして、珠貴の会社である 「SUDO」 本社の画像
が掲載されていた。



