今まで彼にそのような態度を取る人間などいなかった。

恐れ、叫び、逃げまどうーー。

それが彼の知る人間だった。

それなのにこの少女は彼の髪を遠慮なく触り、三つ編みにして遊んでいる。

「お嬢さん……キギノミオナちゃん……だったけ?」

「あ、ミーナで良いですよ!みんなそう呼びますし」

「そう……。じゃあミーナちゃん。君はオレが怖くないの?」

「え?全然怖くないですよ~」

(だって夢の中だし!)

夢なら何をしたっていい。

例えヴァンパイアと言う男の髪で遊んでも問題ない。

ミーナは黒い瞳をきらめかせながらニコニコ笑う。

その顔は嘘をついてるとは思えない屈託のないものだった。

そして遠慮なくアンバードの瞳を覗き込む。