○電話ボックス、外、夜
山下が話している。

○同、内、夜
山下が話している。

(山下)「どうしたんだいったい?」
(悦子の声)「べつに。あなたに会いたかっただけ」
(山下)「もうすぐ子どもが生まれるんだ。
かんべんしてくれよ。話はあの時つけたはずだ」

(悦子の声)「あの時はまだ、私も子どもだったから」
(山下)「今は違うと言うのか?」
(悦子の声)「ゆっくりと話したいの。昔の山下先生と」

(山下)「ちょっと待ってくれ。うーん。
とにかくもう一度すぐかけなおす」
山下、受話器をかけ、すばやく手帳をめくる。

意を決して電話をかける。
(山下)「来週の金曜の夜8時。スーパー向かいの
コンビニで待っててくれ。車で行く」

(悦子の声)「わかったわ。来週の金曜の夜8時。コンビニで」
山下、受話器を置き。殺意の顔で、
(山下)「くそっ、なんとかせねば。一生付きまとわれる」

○ホームセンター、外
山下の四駆が止まっている。
山下、スコップ、つるはし、ロープを抱えて店から出てくる。
後部ドアを開けて積み込む。
(山下)「これでよし、と」

○コンビニ、外、夜
店内に悦子が見える。
山下の四駆が走り来て止まる。
店内から悦子、走り出て助手席にかけ乗る。
山下、周囲に目配っている。

○車内、夜
山下予悦子の頭越しにスコップが見える。
(山下)「どこへ行く?悦子」
(悦子)「鏡湖」

(山下)「えっ?」
(悦子)「鏡湖へ行って。思い出の場所だから」
(山下)「よし分かった。そこでゆっくりと話をしよう」
山下、後ろを見てエンジンをふかす。

○コンビニ、外、夜
山下の四駆がバックし、急発進する。
店内の立ち読みの男がじっと見ている。

○山道、夜
満月である。
疾走する山下の四駆。

○同、カーブ、夜
湖が見えてくる。
月光を映し、とても美しい。