○元のキャンプ場
悦子、鈴木、佳子がいる。

(佳子)「もしかして、山本太一君もあなたが計画的に殺したの?」
(悦子)「ホホホ、その通りよ。一度体を許したら、もう
狂おしいまでに私を付回すのよ。うざいったらありゃしない」

(佳子)「でも、殺さなくても?」
(悦子)「山本太一は、一緒にならなきゃ、何もかも山下先生に
ばらしてしまうって言うのよ。そんなことされたら、大好きな
山下先生は私の元から去っていく・・・」

(佳子)「だから殺したの?」
(悦子)「太一と心中なんてばかばかしい。たらふく
睡眠薬を飲ませて、湖の中へ引きずり込んでやった」

(佳子)「悦子さん・・・」

○イメージ
水中でセーラー服の悦子が、山本の背中を
蹴り沈めている。やがて山本は下に沈み、
悦子は浮上する。

○イメージ
水面に浮上して大きく息を継ぐ悦子の顔。

○元のキャンプ場
悦子、鈴木、佳子がいる。
(鈴木)「山下先生にはもうすぐお子さんが
生まれるはずだった。君は知っていたのか?」

(悦子)「もちろんよ。7年前、私は散々もてあそばれた。
田中先生と結婚した山下先生は、私を裏切ったのよ。
もう2度と自分の前には現れないでくれと言って、
多額のお金を渡されたわ」

(鈴木)「なのに、なぜ?」
(悦子)「私の血なのよ。どうしようもできない私の
体内を流れる血が、何もかもを悪い方向へと、
巻き込んでいくのよ。これはどうしようもないのよ」

(佳子)「耐え切れなかった」
(悦子)「そう、命に宿る宿業はどうやっても変えきれ
ないのよ。命の奥底ですさまじい情念が私の体を勝手に
破滅へと走らせるのよ。全ての知恵とエネルギーを集中させて」

(鈴木)「それで山下先生を」

(悦子)「そう。山下先生も私の殺意を本能的に
察知していたと思う。私も車に乗り込んだ時、
もう先生の殺意を感じ取っていた。私の武器は

母親からもらった水中3分間の息止めだけ。それを
最大限に活用するしかない。水が入るように窓を
少しだけ開け、シートベルトをしっかりと締めて、

山下先生のベルトに細工をした。意を決して思い
切りハンドルにしがみついた。ここが1番浅い
湖底と知っていたから」

(鈴木)「なんてことを」
(佳子)「・・・・(涙)」

(悦子)「全てはうまくいったのよ。水の中は静かで
とても美しい。今度生まれてくる時は、過去の宿業
を断ち切って、清らかな命で生まれてきたい。・・・
ただそれだけ、あなた達に言いたかった事は」

悦子、湖面の氷上へ小走りに駆け上がる。
(佳子)「悦子さん、あぶない!」
悦子、さらに氷上を沖へと向かう。

佳子、駆け寄ろうとする。
(鈴木)「佳子さん、行っちゃだめだ!
彼女と心中することになる、佳子さん!」

佳子、立ち止まる。
(佳子)「悦子さん!」
悦子、さらに沖へ向かう。とその時、

一天にわかに掻き曇り。雷鳴が轟く。
稲妻が走り、ひょうが降ってくる。
(鈴木、佳子)「悦子さーん!」

悦子、にっこり笑って両手を挙げ、
氷の割れ目に水没する。
雷鳴、稲妻、ひょうが降る。

鈴木、佳子をかばって乗用車に乗り込む。
佳子、涙にくれている。
ものすごい吹雪。視界はゼロに近い。

その中を、赤灯を回転させながら
パトカーが1台ゆっくりと来る。
鈴木の車に横付けして止まる。

パトカーのドアが開く。
木村刑事が出て来て、鈴木の車の
後部ドアをすばやく開ける。