○道
木村と山田が歩いている。
(山田)「なかなか各務原悦子の行方
が分かりませんね」
(木村)「ああ」

(山田)「名古屋あたりか、どこかで死んでたりして」
(木村)「それはない」
(山田)「えっ?」

(木村)「もし自殺するんだったら、必ず
その前に姿を現す、ここに」
山田、いぶかしげに木村を見る。

(山田)「・・・・?」
(木村)「俺の勘だ」

○イメージ
サザエを焼く各務原恵の明るい笑顔。

(恵の声)「あの子も私と一緒で、男運が悪うてね。
好いた男にゃ逃げられるし、いやな男にゃ付きまとわれるしね」

○屋台、内、夜
木村と山田、飲んでいる。

○同、外、夜
雪がちらついている。
木村と山田が暖簾を分けて出てくる。

(山田)「もう雪か。各務原悦子はどこにいるのでしょうね?」
(木村)「この近くだ」
(山田)「?」

二人歩く後姿。
暗闇に雪が降りしきる。

○鏡湖、民宿の庭
湖は一面雪に覆われている。
小春日和である。

民宿の東山老人と孫娘アキが、
雪の上、外庭で話している。

(アキ)「じいじ、春はまだなの?」
(老人)「春はもうすぐじゃ。雪がこんなに積もると、
その下には春が少しずつ芽吹いてくるのじゃ」

(アキ)「ふーん。春は雪ノ下にあるんだね」
アキ、しゃがんで雪を掘る。
(老人)「ワッハッハッハ」

美しい雪の鏡湖。

○車販売店、外
雪かきされている店舗。
新車が展示されている。
桜の木が1本植わっている。

乗用車が1台入ってくる。
鈴木が下りてきて桜の木を見る。

(鈴木)「もうすぐ春か?」
鈴木、店内に入る。

○同、店内
手前に鈴木の机。
奥に課長の机。
電話が鳴る。

(鈴木)「早いな」
鈴木、受話器を取る。
(鈴木)「はい、オート自動車販売、営業の鈴木です」

(悦子の声)「鈴木君?鈴木隼人君?各務原悦子です」
(鈴木)「えっ?各務原さん?君、今どこにいるんだ?
みんながさがしてるよ」

(悦子の声)「内緒にしてて、誰にも言っちゃだめよ。
今日の午後3時、鏡湖に来て。何もかも話します。
竹内佳子も呼んであるわ。絶対に他言は無用よ。
3人だけの同窓会、3時にね(ガチャ)」

鈴木、受話器を置き、卓上のメモに、
『鏡湖、3時』
と、大きく書きとどめる。

(鈴木)「佳子も来るんなら大丈夫だろう」