○湖
まだ残雪のある山麓の湖。
小春日和である。

○湖岸
氷の張った湖。
桜並木を帽子をかぶった老人(東山)が歩いている。
老人、岸辺を見、はっと立ち止まる。

氷面へ下りかがみこむ。
帽子を掴み氷の面を磨く。

氷に閉ざされた美しい女性の顔。
着物姿の各務原悦子(25才)である。
老人大いに驚き慌てる。

○水中
水中でセーラー服の女生徒(18歳の悦子)が、
男子生徒(山本太一)の背中を蹴り沈めている。

○タイトル
『眠る湖』

○タイトルバック
水中の二人。
やがて男子生徒は下に沈み、
女子生徒は浮上する。

○水面
浮上した女子生徒(悦子)の顔。
大きく息をついでゆっくりと湖岸へ泳ぐ悦子。
遠くにボートが見える。

○湖岸
湖岸の岩に泳ぎ着き力尽きて岩につかまり気を失う悦子。

○湖
新緑に映える美しい湖の遠景。

○山道
4駆のバンが走っている。

○車、フロント
丸商陸上部の監督山下俊介が運転している。
助手席に鈴木隼人。皆ジャージを着ている。

○車内
中座席に各務原悦子と山本太一。
後部座席に中村瞳と竹内佳子が座っている。
皆楽しそうである。

(山下)「今年の3年生はインターハイ予選が
最高だったな。鈴木と中村、ごくろうさん」
皆、拍手する。

(鈴木と瞳)「ありがとうございます!」
(山下)「いよいよ卒業だ。就職のほうはどうだ?」
(瞳)「農協の職員に決まりました」
(皆)「ほう!」

(山下)「そうか、それはおめでとう!」
皆、拍手する。
(鈴木)「俺、警察官になろうと思うて試験受ける。
だめだったら車のセールスマン」
皆、笑う。

(山下)「そうか、がんばれよ」
(山本)「俺、家手伝えと言われとる」
(山下)「農家じゃったのお前んとこ。大事な後継者じゃ」

(佳子)「私も後継者。美容師になるの」
(山下)「そうか、専門学校じゃの。がんばりゃあ。各務原は?」
(悦子)「私は、何もまだ決めとらん」

(山下)「そうか。いまどきゃバイトでも何でもありゃあ。お母さんは?」
(悦子)「海女の仕事だけはさせんと言うとる」
(山下)「そうか。お前んとこ女手ひとつで大変じゃもんナ。はよ、楽さしちゃりや」

悦子、複雑な顔をする。
車、急カーブで大きく揺れる。
(皆)「ワー!キャー!先生!ハハハ!」