「小田、なんて?」
ポケットから取り出した煙草から一本抜きとる先輩が私に問う。
「えっと、会えないかなって」
携帯の画面を先輩に向けるとそれを覗きこむ。
「相変わらずテンション高いよなアイツ。 メールでもわかる」
苦い顔をして先輩は私に
「俺も吸っていい?」と流れ際に聞いて来た。
「て、先輩も吸うんじゃないですか」
「もう4回は禁煙心みてるんだけど
…やめられないんだよね」
「かなりのヘビースモーカーですね。」
苦い顔をして笑う先輩につられて私も苦笑いを浮かべる。
「いや、今回は矢崎のせい」
そう言われて呆気な声を漏らす。
「これで4回目の禁煙失敗だからね」
と言う先輩は吸い上げた煙草を口から離し、
煙を宙に蔓延させた。
「……」
その光景が何となく画になっていて黙ったままそれを見つめる。
煙を出し切った先輩はちらりと視線を動かし、
ちょうど私の視線を目が合った。
「顔色…少し戻ってきたね」
「顔色…」
さっきまで真っ白な顔をしていた自分を思い出し片手で頬を隠す。
「調子悪かったんだろ? 大丈夫?」
変わらない先輩の誰にでも優しいところ。
それを久々にまのあたりにして胸がジンとなる。
「…大丈夫です。 ちょっと日当たりが良かったんで貧血になっただけで」
だけど、甘えるなんて柄にもないこと出来なくてまた私は素っ気なくそれを返した。
「…そう…」
あまりの冷たさに先輩も嫌になったのか、
それ以上話すこともなく、休憩所には音もなくただ白い煙が舞う。
しばしの沈黙は居づらさを増していてそれは先輩も同じだと思う。
いつの間にかいつ立ち去ろうかなんてことだけ考えてる。
「―――…」
意を決して先輩にそれを伝えようとすると邪魔するかのように携帯が鳴り始めた。
それはさっきマナーモードを切った私の携帯。
「出てもいいよ」
少しの間その携帯を眺めていると
先輩が優しく電話に出るように促した。
「すみません…」
携帯を手に取り、画面を見る。
「――!」
デカデカと嘉山と言う文字が目に入り、
血の気が引いた。
「…どうしたの…?」
なかなか出ない私を見て先輩が首を傾げている。
「っと…」
ここで出るわけにもいかず、私は咄嗟に留守電に変えた。
「…よかったの?」
「え、えぇ…」
なんとも言えず言葉を濁す。
「俺がいるから?」
「え…」
「俺がいるから出れないのかな、と思って」
始めてみる笑顔でない先輩の表情。
声は山本さんといるところ出来くわした時の
感情のない声と似ている。
「……」
「そんなことないですよ。」と笑ってしまえばなんとでも言いわけ出来るのに
射抜くような先輩の視線は全てを見透かされているようで
…怖い。
汚れた私も
弱い私も
偽っている私も
誰にも知られたくない。
恐怖で唇が微かに震える。
床に燃え散った煙草の灰がポトリと音もなく落ちた。
