自転車のロックを外して、飛び乗った。

「雨月姉、起こしてくれれば良かったのに…!」

こぎながら、思わず口から文句が出てしまう。

雨月姉は、俺が通ってる正陽高校ではなく、白露-Shiratsuyu-高等学校というところに通っている。

白露高等学校は、学力のレベルが県内トップクラスの中高一貫の共学校で、神楽姉の母校でもあり、毎年有名大学にたくさんの卒業生を送っている。
が、この学校、俺の家から行くには電車通学でなくてはいけなくて、必然的に朝は早い。

ちなみに羽衣姉は中高とこれまた別の女子校に通っていた。今通ってる大学は共学だけど、羽衣姉の友達が守ってくれているらしい。
結果、純情すぎる女子大生が出来上がった次第というわけだ。

「何で、こんなときに限って信号!」

寝坊あるある
・いつもは引っかからない信号にやけにかかる。

…ウザってー!

「あー、もう!」

イライラしながら自転車をフルスピードで飛ばした。

必死な俺を笑うかのように、背後で鳥がやけに呑気に鳴いていた。

***

「時雨、寝坊したんだな」

目の前でおかしそうに笑う青磁を尻目に、一口サイズのバターロールを掴む。

寝坊あるある
・友達がやけにからんでくる。

「いーだろ。結局間に合ったし」

「遅刻しなくてよかったなー。あ、それ一個ちょうだい」

「バーロー。遅刻すっかよ…って勝手にとるな!俺の貴重な朝飯!!」

朝のドタバタで疲れた俺は、目の前で旨そうにパンを食す、何ともむかつく野郎を睨んだのだった。