桃香は、少しつらそうに笑って続けた。


「私ね、男の人と付き合うの、初めてだったの。
それで、すごく舞い上がっちゃって、本当の先輩のこと、全然見えてなかった。

毎日、好きな人に会えて、好きな人に好きだよって言ってもらえて、それが、とってもうれしくて幸せで……。

本当はね、先輩の悪いウワサも耳に入ってきてたの。

恋人をコロコロ変えるとか、そういうウワサ。

でも、信じないようにしてた。

そんなのウソだって。

でも、ウソじゃなかったんだよね。

トモアキ君の描いた絵を見て、自分の中で勝手に作り上げてた理想の先輩像が、ガラガラくずれて、

それで、やっと目が覚めたの。

現実が、ちゃんと見えた。

私は、先輩に恋してたんじゃなくて、初めて恋人ができたってことに、浮かれてただけなんだって」