おかしな二人



凌の話すことに、あたしは何も言えずにいた。

抱いてしまった感情を押し殺すというのがどれほど大変なことなのか、あたし自身最近になって身に沁みてよくわかったからだ。

英嗣の事を好きになり、抑えきれない自分の想いに勝手に振り回され、グラグラになっていたのだから。

人を想うと、どうしても視界を狭めてしまう。
いつもなら気づくはずの事にも気づかず突き進み、考えなくてもいい事に頭を悩ませ不安になる。

相手の言った一言一言に振り回され、悲しんだり苦しんだり。

傍から見れば、そんなことでいちいち、というようなことが、この世の終わりのようにさえ思えてならない。
悲劇を気取るつもりなどないはずなのに、自らその位置へと躍り出てしまう。

「しばらく、頭を冷やすよ……」

外を見ていた視線を、やっとこっちへ向ける。

「年が明けたら、少しの間海外で仕事をすることになったんだ」
「海外?」

「うん。知り合いが、イタリアのモデル事務所を紹介してくれてね。うちの事務所と合同で、コレクションを開くことになったんだ。それで、そのショーに出演するためにしばらく向こうに行く事になった」
「しばらくって、……どれくらい?」

「多分、半年くらいかな」
「半年……長いね」

「そうかな……。長いか……」