席に着いて直ぐ、コーヒー飲むか? といって、返事を待たずに凌が席を立った。
隅に置かれている自販機に向かうと、缶コーヒーを二つ買い戻ってくる。
コトリと音を立てて、缶が目の前に置かれた。
「寒かったろ……。あったまるから」
凌は、プルリングを引き、缶コーヒーをひと口飲む。
あたしは置かれた缶に両手を伸ばし、冷え切った手をその熱で温めた。
その温かさがじんわりと沁みこむのを感じながら、どんな風に切り出すべきか迷っていると、凌が先に口を開いた。
「人を想う気持ちって、なんて傲慢なんだろうな……。あんなに相手の事を一番に想っていた筈なのに、いざ手の届く場所に居ると気が付いたら、自分本位になってしまう……。大事にとか、大切にとか。もう苦労はさせないし、辛い目にはあわせない。そんな風に思い続けていたはずなのに、結局、そうやって大事に大切に想って貰いたいのは自分の方で、一番傷つけているのも自分だった……」
「……りょう」
俯く凌の口元は、引き攣るように歪み、瞳は後悔を宿し揺れていた。
「俺、自分がこんなにも歪んだ人間だなんて、思いもしなかったよ。いくら血の繋がりがないとしても……、どう考えたってこんなの普通の感情じゃない。こんな気持ち、意地でも押さえ込んでおくべきだったんだ……」
自らを嘲笑うようにまた口元を歪め、視線を未だ合わせられずに外の景色に目を向ける。



