おかしな二人



どのくらい歩いただろう、やっとの思いで大きな通りに出ることができた。
今どの辺なんだろう、と道路上の青色の看板を見上げる。
それを確認して、流しのタクシーを止めた。

「近くの駅までお願いします」

早朝の空いている道路を、タクシーはスムーズに進んだ。
程なくして、見知った駅名の看板が目に飛び込んでくる。

千円ちょっとの料金を払ってタクシーを降り、電車に乗り込んだ。
空いている座席に腰掛け、もう一度縋るように名前を呼んだ。

「英嗣」

携帯を両手でギュッと握り締め、さっきの事を忘れるために、いつもの生活を思い浮かべる。

毎日毎日どやしてくるあの声を思い出す。
ギターを弾いて歌っていたときの艶のある声を思い出す。
本気で怒った顔や、照れた顔。
冗談を言って笑い声を上げる姿や、物怖じしない態度。
酔ってくだを巻く姿や、時折見せる優しさ。

英嗣の全部で頭の中を一杯にして、凌との事を必死に脳内から追い出そうとした。

それでも、辿り着くまでの数駅揺られている間にもどんどん涙が込み上げてきて、周囲に気付かれないように何度も拭った。