「喫茶店でも言ったけど。あたし、本当に感謝してるんだ。こうやって、借金以外の事を考えられるのも、楽しむことができるのも、英嗣があたしを雇ってくれたからだもん」
「べ、別に。俺は、ただ、よう働く女をみつけただけやし……」

水上さんが照れ隠しのようにグラスの水を空になるまで飲み干すと、そこへ前菜とワインが運ばれてきた。
そして、話は一旦途切れる。

グラスに注がれるワインを眺め、綺麗に飾り付けられた料理を二人で堪能する。
途中になってしまった話はそのままに、あたちしたちはただ黙々と出てくる料理を味わった。
水上さんは、以前のようにワインをがぶ飲みする事もなく、終始落ち着いた様子で料理を口に運んでいた。

コースの終盤。
運ばれてきたのは、ここの一押し。
フルーツが入ったロールケーキをクリスマス用にデコレートしたものだった。

デザートの段階になると、久しぶりだ、とでもいうように水上さんが口を開いた。

「このケーキ、上手いらしいで。シュウが言っとった」

シュウというのは、メンバーでギタリストのシュウ君のことだ。

「そうなんだ」