「この前の、彼か……?」
「だっ、誰よ、彼って」
あたしは、解っていながらそう言って、まだ熱いカプチーノを無理やり口にした。
口に流れ込んだ液体は、口内の薄皮をふやけさせ、ヒリヒリとした痛みを運ぶ。
凌はカップに手を添えたまま、そんなあたしの事をじっと見ている。
「な、なに?」
「いや……、いいんだ」
凌は何か言いたそうなのに、口にせず視線をカップに移した。
空気が、なんだか重い。
「あのさ。凌の仕事って、大変?」
あたしは、話題を変えようと努めて明るい口調で訊ねた。
「大変なのかな」
凌は、他人事のようにつぶやいた。



