黒髪の少年

海に辿り着いたアレンは、
海より少し離れた砂浜に、
腰を降ろした。
「はぁ...」
アレンは王宮にいた時より、
悲しそうな、悩んでいるような
表情で海を見つめた。
ざっ...ざっ...
誰かが近づいているのにも
全く気にせず、海を見つめている。
「あんた、海好きなの?」

ようやく誰かが来ていた事に気づき、
アレンは顔を上げた。
それは、とても美しい女性だった。
「うん、まぁ好きかな。
悩みがあると僕は此処へ来るんだ」
女性はアレンの隣に腰を降ろした。
「ふーん。で、その悩みは
解決してる訳?」
「あぁ、まぁ粗方は解決してるよ。
君は海が好きなのかい?」
「あたしは好きかな。
青くて大きくて、綺麗な海水を
ずっと見てるとスッキリするの」
女性は突然、ハッとしたような
態度をとった。
「って、どうしてあたしが
見ず知らずのあんたに
自分の事を教えなきゃいけないのよ」
その時、初めて互いの目が合った。
「....君。あの時、いたね」
「は?」
女性は呆気に取られたような
表情でアレンを見つめた。
「この前僕の国で、一人の女性と
もめてただろう?
僕はこの国の王子アレン」
「....」
女性は黙り込んでしまった。
アレンも諦めて、再び視線を
海に戻した。
「シルビアよ。チルゼニア王国の。
あんたは知らないだろうけど」
アレンは海を見つめたまま微笑んだ。
「知ってるよ、名前だけだけど。
そうか、君がシルビア....。
ところで、どうして君はあの時
この国にいたの?」
アレンは再びシルビアに視線を向けた。
「あんたに関係ないでしょ」
心なしか、シルビアの頬が
ほんのり桃色に染まっていた気がした。
「あぁ、ごめん。気に障ったみたいで。
今度僕の王宮に遊びに来ないか?」
その言葉に驚いたのか、
シルビアは少し目を見開いた。
「あんた、あたしの事知らないの?」
「知ってる」
「だったらどうして」
「噂通りじゃない人もいるし、
自分で確かめるまでは
信じないようにしてるんだ」
「あぁ、そう」