黒髪の少年

一人の女性は肩を押さえた。
「いっ、痛い...」
誰かとぶつかったのだ。
ぶつかられた女性は、
ぶつかってきた方を見た。
「え」
それは、シルビアだった。
「井戸端会議、やめてくれる？」
彼女はそれだけ呟くと、
颯爽とその場を去ろうとした。
「ちょっと待って下さい」
ぶつかられた女性は、
肩を持ってシルビアに話しかけた。
「何？文句でもあるの？」
「お怪我は...ありませんか」
「ないわよ、そんなもの。
あんたみたいな
猫かぶりじゃないんだし」

その時、隣にいた女性が
身を乗り出した。
「ちょっと！それは酷くないですか？
確かに井戸端会議をしていた事は
悪いと認めますが、だからと言って
そこまで仰る必要はないと思います！」
「あんた誰に口利いてるの？
あたし、これでも王家の者よ？」
「貴女のような方を
お見受けした事はございません！」
「これは申し遅れたわ。
あたしはチルゼニア王国のシルビアよ」
その瞬間、女性の顔が強張った。

間も無く、その国の王家の人々が
噂を聞きつけてやってきた。
「其処の者達、争いを直ちにやめよ」
女性はシルビアから一歩下がった。
「申し訳ございません」
「相手の女は？」
「シルビア様は...あら？」
其処にはもう、シルビアの姿は
ひとかけらもなかった。