黒髪の少年

あれからシルビアは、
毎日海に来ている。
海に何かがあるというわけでもなく、
必ず毎日、ずっとその砂浜に
座り込んでいる。
「はぁ...」
丁度溜息をついたその時だった。
「溜息なんかついて、どうしたの?」
シルビアは驚いた。嬉しそうに。
しかし彼女は、何でもない様な表情で
声の主のいる方へ振り返った。
「アレン」
名前を呼ばれると、アレンは
少しだけ微笑んで隣に腰掛けた。
なんだか悩みを持っていそうだった。
「どうしたのよ?」
「ちょっとね」
「言いなさいよ。今のあなた、
らしくないわよ」
アレンはふとシルビアの顔を見た。
「そういえば僕の事、あんたじゃなくて
あなたって
言ってくれるようになったね」
「話、逸らさないで」
話を逸らそうとしたアレンに、
シルビアは目を細めた。
「ごめん...」
アレンは決心したように口を開いた。
「僕には好きな人がいるんだ。
でも父上に、その娘と関わるな
って言われて...。
未だに納得がいかない。
やっと初めて出来た好きな人なのに、
それを父上に拒まれるんだもの。
前々から想い人については
悩んでたのに...。もっと悩んじゃうよ」
「逆らってしまえばいいんじゃない?
あたしなんて毎日逆らってるわよ。
アレン、あなた父や母に
逆らった事がないんじゃないの?
そんな息子の反発は、
きっと理解してくれると思うわ。
あたしみたいに勇気を出して、
自分の思う事を打ち明けたらいいわ。
それが家族ってものでしょ。
そこは庶民も王家も、
変わらないと思うの」
シルビアは真剣な顔でそう言った。
「僕は君のそういうところに、
惚れたのかもしれない」
アレンはそう呟いた。
えっ?とシルビアは目を点にした。
「僕の好きな人はシルビア。君なんだ」