「池波琴莉さん。俺と付き合ってくれませんか?」
優しく、囁くように耳元でそう告白してくれた。
夢にまで見た、言葉。
ただの願望で、そんなこと言ってもらえると期待できることなんてまるでなかった。
でもいつか……って何度も何度も想像した。
その度に苦しくなって、私は勉強するしかなかった。
それなのに、その夢が現実としてある。
あまりの嬉しさに、さっきは耐えた涙が零れた。
「わ、たし。中学卒業、したばっか、だよ? いいの? こんなお子様で」
言いたくもない事実が、なぜか自分の口から出る。
けれどそんな私の言葉を、ちぃくんはクッと笑った。
「バーカ、そんなの知ってるよ。ことちゃん」
そう言って顎を私の肩に乗せる。
一番気にしていた事実を、だからどうなんだと事も無げに一蹴されてしまった。
「早く返事っ」
私を急かすちぃくんに、また頬がにやついてしまう。
――もう、そんなのとっくの昔に決まってる。
重力に従ってだらんと落ちたままだった腕。
その腕に力を込めて、私もギュッと抱きしめ返した。
そして……
「はいっ。お願い、します」
お兄さんの耳元で、恥ずかしさを押し殺して精一杯の返事をした。
すると
「好きだよ、琴莉……」
顔を上げたちぃくんが、私を見下ろしてそう言うと――
優しくて、温かい笑顔を浮かべながら、私の額にキスをした。
私も、好き。
ちぃくんが、大好き。
ちぃこと 1 終
23.9.15 完
25.8.31 転載了

