「私だってっ、私だってめっちゃくちゃ楽しみでした! この日の為だけに、嫌ってほど勉強したのに!」

 吐き捨てるようにそう言うと

 「知ってる」

 ニヤッと嬉しそうな顔をお兄さんがする。

 そのままカタンと音を立てて、近くの机にお兄さんは浅く腰かけると――

 「おいで」

 って両手を広げて私を呼んだ。

 「え……?」
 「いいから」

 来い来いと手招きするお兄さん。

 ドキドキする心臓も赤くなる顔も止められないままゆっくり近づくと、お兄さんの足の間に立った。

 座ってるから、少しだけ顔の位置がいつもよりも低くて、私とほぼ同じ目線。

 そっと包むように私の腰のあたりに両手を回すと、お兄さんは顔を前に傾けてコツンと私の額に額をくっつけた。

 「ひゃうっ」
 「くくく」 

 突然の行動にビックリして変な声を上げる私。

 一々反応の大きい私にお兄さんは小さく笑った。

 「も、笑わなくったってっ」

 拗ねて言いながら目線を少し上に向ける。

 するとすごく至近距離にお兄さんの目が合って、私はさらにドキドキした。


 心臓が、壊れそう――――


 そう感じるくらいにドキドキする。

 ドキドキして落ち着かない私とは反対に、今までの表情を一転させてお兄さんは真剣な表情に切り替わった。

 そして私を閉じ込めたまま、静かに口を開いた。

 「やっと、聞ける。名前―――」
 「あ……」

 最後の日。

 聞きたくて止めたこと。

 あの時、お兄さんもそう思ってくれてたんだと思うと顔が綻ぶ。

 願掛けの一つだった。

 次に逢う時まで、名前を聞かないでおこうって。