合格発表の当日は、やけに早くに目が覚めた。

 ドキドキが止まらなくて、眠れないかもと何度も思ったけど気が付いたら普通に寝ていて。

 でも起きたら5時半だったから、笑えた。

 お父さんのお弁当を作るためにお母さんが、ご飯を炊いているのを知っていた私は、昨晩お母さんにお願いしていた。

 「ちょっとだけ、多目に炊いて欲しいんだけど」って。

 久しぶりにお兄さんに会える――まだ断定できないけど。だから、おにぎりを渡したかった。

 私とお兄さんを繋ぐ、おにぎり……

 初めて食べてもらった鮭にしたいと思って、鮭もお母さんから少し分けてもらって握った。

 「合格発表の日におにぎりいるの?」

 不思議そうな顔をするお母さん。

 でもお兄さんのことを言うのは恥ずかしすぎるから、それは内緒。


 「うん。これがとっても重要なの!」


 とだけ言った。

 いつか、いつかお兄さんのことを言える日が来たら、いいな――なんて思いながら。

 いつもどおりにご飯を食べ、受験の日以来、久しぶりに制服に袖を通す。

 ブラウスを身に纏い、ブレザーを着る。

 卒業式を終え、受験が終わった今……おそらくこの制服を着るのは今日で最後だ。

 名残惜しさを少し感じつつ、姿見で自分を見つめニコリと笑った。

 お兄さんに会えたら、自分の中の最上級の笑顔で逢いたい。

 キュッとプリーツの裾を引っ張って皺が伸びるのを確認し、手には受験票を握って私はいつもより少し早く家を出た。

 玄関で母が

 「笑顔で帰ってくるあんたしか、家に入れてあげないから!」

 と言う声を聞きながら。

 合格していたら、今後お世話になる電車に少しドキドキして乗り込み、流れる景色を見た。

 もちろん隣には真理亜も一緒。

 「受かってるよね、絶対」
 「うん。絶対……」
 

 『私立か公立、どっちかしか無理かもな』

 そう言った塾の先生の声が、脳内に響く。

 私立が受かった以上、恐い。

 凄く怖い。

 でも、でも私は――絶対に受かってるって信じてる。

 自分を。

 そしてお守りたちを。

 受験当日と同じように、ポケットに忍ばせたお守りをギュッとプリーツの上から力強く握りしめた。