とにかく前向きに、分からない問題はじっくりと、迷った時は授業を思い出せ…… 

 塾の先生に言われたことや、学校の先生に教わったことなどを時々思い出しながら、慌てずに対応する。

 私は、たくさん勉強してきたんだから、解ける筈。

 そう、信じて。

 自分を……信じて。


 ――――――


 2月の私立受験の後は、教室に異様な空気が流れた。

 うちの中学からは、高校受験をしないという選択肢をとる子はわずか数人だから、ほぼ全員が受験することになる。

 まずは1月に推薦枠が決まる。

 次いで、県外で受験時期が早い学校。

 そして2月の私立受験。

 ここまでで約半数が受験を終える。

 ……となると、私立受験後に勉強を続けるのも残り半分となるので、残りの受験組。

 つまり公立本命の人間は、終わって浮かれている子を隣に見ながら勉強を続けなくてはいけないわけで。

 それは結構苦痛だったりする。

 そして、私も例に漏れずそうだった。

 私立受験後、やけに気力が落ちてしまって、鉛筆を手に持つのが億劫になっていた。

 まだ、やんなきゃいけないのに……本命はまだ始まっていないのに。

 頭では分かってても、なんとなく体が反応しない。 


 会いたいな――


 お兄さんを思い出しながら椅子に座って、天井を見上げていたら気付かぬ間に弟が後ろに居た。

 「ねぇーちゃんっ」
 「わ、わぁっ!」

 ワッと私の両肩に手を置く形で近づかれ、私の体はびくぅっと跳ねた。

 「ちょっと! ビックリしたでしょ!?」
 「あー、ごめんごめん」
 「軽すぎる!」
 
 一瞬怒りが起こった半面、久しぶりだなーこういう弟とのじゃれあいも……と思いだし、ふっと肩の力が抜けた。

 「どしたの?」
 「べぇつにぃー?」

 何か用事がったから来ただろうに、それを誤魔化す弟の態度にクスクスと笑いながら、私は体を起こして弟の方に体を向けた。