暗い表情のまま車に乗り込むと、お父さんはやけに張りきっていて、今にも頭に鉢巻きなんかを巻きださんばかりの勢いだった。

 「いいかい、娘よ」
 「ちょ、何キャラ!? お父さん」
 「ゆくぞ!」
 「お願い! 普通でお願いっ」
 「GO----!!」

 父の勢いは止まることを知らず、運転も見事にスリリングなものだった。と感じたのは私の気持ちの問題かもしれないけれど。

 とにかく、スリリングすぎて着いたころにはとてつもない安堵の波が広がった。

 「着いて、よかった……」

 普通に行った方が、数万倍も安定した心地で行けた筈だ……と心の底から思いながらも

 「ありがとう、お父さん」

 礼を言った。

 もしかしたら、もしかして、だけど。

 お父さんなりに私の緊張をほぐすためだったんじゃないか? と長年の付き合いで気が付いている。

 だから、そっとお礼を言った。

 もちろん、道中に凍結注意の表示を見て「滑ったらどうしよ~」とか言った時には、殺意が芽生えたけれど。

 それもきっとわざとだと、そう思って、いや、思いこんでありがとうと言った。 

 「おう! ミッション、クリア―だぜ!!」

 ブイ! とピースと共に白い歯を見せてキラキラと笑顔を送る父を見て、若干引き攣り笑いを見せながらも、私は小さく手を振って校門を潜った。

 ミッション、クリアー……か。

 そう思えば楽しいかもね?

 父に変な励ましを受けて、私の初めての受験は始まった。



 お兄さんからもらったお守りと、そして第4ボタンをポケットに忍ばせて――