今更かもしれない、とは思いながらインフルエンザの予防接種を受けた。

 それに、自習室に通うのもおしまい。学校にはもちろん通ったけど。

 塾には、1人インフルエンザに感染した子が出て、自主休講したりもした。

 お母さんもそれを勧めてくれたし。

 お兄さんに言われて、今まで以上に自分の体を万全にしようと思った。

 勉強中は、適度に空気を入れ替えて、膝には膝かけをして。

 寒くなりすぎたり暑くなりすぎたりしないように。

 早くに寝て、早くに起きて。

 だらだら過ごさずにメリハリをつける。

 自分を大事にするのって当り前のことなのに、意識が低かったんだなって気がついた。

 だから……お兄さんはもしかして、自分のことじゃなくて、私のために自習室行かないなんて言ったんじゃないかって。

 そんな自惚れにも似た解釈をした。


 『毎日逢いたいくらい』


 そう言ってくれたお兄さんの言葉が、声が、脳内にリフレインする。


 その度に会いたくなって。

 その度に泣きそうになる。


 じゃあどうして、会えないの?

 どうして、会いに行ってはいけないんだろう? って。


 でも、これを乗り越えたら。

 受験が終わったら……そうしたら、いいんだよね?

 目の前にいないお兄さんに話し掛けるように、私は何度も同じ質問を繰り返す。

 そしてまた勉強を始めた。

 私がお兄さんに会える鍵は、ただ一つ。

 『受験に勝つこと』だから。

 自分で買ったいちごミルクの飴を口に放り込み、筆箱からコロリと転がってきたお兄さんの第4ボタンを人差指でつんつんと付きながら、私はフッと笑う。

 後、2月。

 そうしたら、会いに行くね――お兄さん。

 絶対に、絶対、会いに行くから。