お兄さんの心臓の音。
ふわりと香る、服の匂い。
吐息。
重み。
体全部でそれを受け止めると、眩暈がした。
ドキドキが止まらなくて、心臓止まりそう――
腕をお兄さんに回し返す余裕もなくて、ドキドキドキドキしながら、私は腕をだらりと落としたままただ抱きしめられていた。
その時――
「絶対、絶対に。来て」
耳元にそっと顔を近づけたお兄さんは、そう囁いた。
私はぴくりと震えて戸惑ったけれど、ぎゅっと抱きしめたい――そう思う気持ちが抑えられなくなって、意を決してドキドキの止まらない胸を抱えたままギュッと腕に力を込めてお兄さんの背中に回した。
「――うんっ、おに、ぃ、さんも、ね?」
「ばーか、誰に言ってんだよ」
「うぅ……」
私は、耐えていた涙をついにポロポロと零して、お兄さんの学ランを濡らした。
それがぽつぽつと黒いしみになっていく。
「はわっ、ご、めんな、さっ」
慌てて離れようと胸元に手を付く。
でもそれを阻止するように、お兄さんにさらに力を込めて引き寄せられた。
「いいよ。大丈夫」
「……ん」
いいって言われて力が抜けた私は、そのままの状態でまたギュッと抱きしめられた。
そして
「ん。充電完了ー」
お兄さんのその一声で、緩やかに私は離される。
隙間ないお兄さんとの間に少し溝ができて、それがやけに寒く感じた。
「じゃあ、帰ろうか」
「……はい」
お兄さんの声が寂しそうに聞こえた気がした。
だから私は、同じ気持ちなんだって思えて、別れは嫌だけど心が温かくなった。
――でも、やっぱり離れたくは、ないけど
図書館前の自転車置き場まで来て、いよいよお別れの時が来た。
「じゃあ、元気で」
「うん……お兄さん、も」
「ははっ、お兄さんか」
「え?」
「いや、何でもない」
カラカラと音を立てる自転車を2台並走させて歩く。
「俺、こっち」
「私、こっちです」
それぞれ反対方向を指した。
「「あの!」」
視線をそれぞれに戻した瞬間。
二人の声が重なった。
「先、どうぞ」
「いや、そっちから」
と譲り合いを始める。
でも
「やっぱりいいや」「やっぱりいいです」
同時にそう言って、目を見合わせて笑った。
「またな」
「はい、またっ! 必ず」
「うん、絶対に」
そう言って、手を振って別れた。
お互いに聞きたくて、やめたこと。
それは、今度にすることにした。
絶対に絶対に……私はまたお兄さんに逢ってみせる。
――そして、その時こそは
ふわりと香る、服の匂い。
吐息。
重み。
体全部でそれを受け止めると、眩暈がした。
ドキドキが止まらなくて、心臓止まりそう――
腕をお兄さんに回し返す余裕もなくて、ドキドキドキドキしながら、私は腕をだらりと落としたままただ抱きしめられていた。
その時――
「絶対、絶対に。来て」
耳元にそっと顔を近づけたお兄さんは、そう囁いた。
私はぴくりと震えて戸惑ったけれど、ぎゅっと抱きしめたい――そう思う気持ちが抑えられなくなって、意を決してドキドキの止まらない胸を抱えたままギュッと腕に力を込めてお兄さんの背中に回した。
「――うんっ、おに、ぃ、さんも、ね?」
「ばーか、誰に言ってんだよ」
「うぅ……」
私は、耐えていた涙をついにポロポロと零して、お兄さんの学ランを濡らした。
それがぽつぽつと黒いしみになっていく。
「はわっ、ご、めんな、さっ」
慌てて離れようと胸元に手を付く。
でもそれを阻止するように、お兄さんにさらに力を込めて引き寄せられた。
「いいよ。大丈夫」
「……ん」
いいって言われて力が抜けた私は、そのままの状態でまたギュッと抱きしめられた。
そして
「ん。充電完了ー」
お兄さんのその一声で、緩やかに私は離される。
隙間ないお兄さんとの間に少し溝ができて、それがやけに寒く感じた。
「じゃあ、帰ろうか」
「……はい」
お兄さんの声が寂しそうに聞こえた気がした。
だから私は、同じ気持ちなんだって思えて、別れは嫌だけど心が温かくなった。
――でも、やっぱり離れたくは、ないけど
図書館前の自転車置き場まで来て、いよいよお別れの時が来た。
「じゃあ、元気で」
「うん……お兄さん、も」
「ははっ、お兄さんか」
「え?」
「いや、何でもない」
カラカラと音を立てる自転車を2台並走させて歩く。
「俺、こっち」
「私、こっちです」
それぞれ反対方向を指した。
「「あの!」」
視線をそれぞれに戻した瞬間。
二人の声が重なった。
「先、どうぞ」
「いや、そっちから」
と譲り合いを始める。
でも
「やっぱりいいや」「やっぱりいいです」
同時にそう言って、目を見合わせて笑った。
「またな」
「はい、またっ! 必ず」
「うん、絶対に」
そう言って、手を振って別れた。
お互いに聞きたくて、やめたこと。
それは、今度にすることにした。
絶対に絶対に……私はまたお兄さんに逢ってみせる。
――そして、その時こそは

