「バカ。大事なことは覚えとかないと」
「うぅ。そうですね」
「まぁいいよ。それは俺が調べとくから」
「……ハイ」
言われてから、なぜお兄さんが私の合格発表を知る必要が? と思った。
でも、自分のことを知ってくれようとしてくれている気持ちは嬉しい。
そう思って、そのことには触れずに肯定した。
「なぁ」
頭上から降る、すっかり慣れてしまった心地よい声が降り注ぐ。
私は近すぎる距離に、やっぱり慣れなくて俯いたまま
「はい」
と返事をしたら、よく分からない質問を続けられた。
「合格発表、見に来るだろ? 自分の」
「もちろん行きますけど……?」
「そこで、待ってる」
「え?」
意味の分からない言葉に、俯いていた顔を上げて至近距離でお兄さんを見る。
私を見下ろすお兄さんは、とっても私のことを大事そうに見つめてくれていて、それだけでも十分に幸せだと感じる。
ニッと笑って、お兄さんは続けた。
「合格したら、来いよ。3Bの教室まで」
「え、3B?」
「俺、教室で待ってるから。合格してたら、来て」
「それってつまり、落ちてたら会わないって事?」
「そう。やる気、出ただろ?」
「う……」
ちょっと弱り顔を見せると、ブフッと笑われて私は頬を膨らませ、更に笑われた。
「俺も……合格通知持ってじゃないと、行かない。願掛け」
「わかった……です」
「何その変な喋り方は?」
「うぅ」
そのとき、ゆっくりと撫でてくれていた手が、背後に回されて――そして
ギュウッッ
「!!」
私は初めて男の子に、いや男の人に抱きしめられていた。
想定もしていなかった初めての事態に、私はパニックになる。

