ちぃこと1


 「バカ。大事なことは覚えとかないと」
 「うぅ。そうですね」
 「まぁいいよ。それは俺が調べとくから」
 「……ハイ」

 言われてから、なぜお兄さんが私の合格発表を知る必要が? と思った。

 でも、自分のことを知ってくれようとしてくれている気持ちは嬉しい。

 そう思って、そのことには触れずに肯定した。
 
 「なぁ」

 頭上から降る、すっかり慣れてしまった心地よい声が降り注ぐ。

 私は近すぎる距離に、やっぱり慣れなくて俯いたまま

 「はい」

 と返事をしたら、よく分からない質問を続けられた。

 「合格発表、見に来るだろ? 自分の」
 「もちろん行きますけど……?」
 「そこで、待ってる」
 「え?」

 意味の分からない言葉に、俯いていた顔を上げて至近距離でお兄さんを見る。

 私を見下ろすお兄さんは、とっても私のことを大事そうに見つめてくれていて、それだけでも十分に幸せだと感じる。

 ニッと笑って、お兄さんは続けた。
 
 「合格したら、来いよ。3Bの教室まで」
 「え、3B?」
 「俺、教室で待ってるから。合格してたら、来て」
 「それってつまり、落ちてたら会わないって事?」
 「そう。やる気、出ただろ?」
 「う……」

 ちょっと弱り顔を見せると、ブフッと笑われて私は頬を膨らませ、更に笑われた。 

 「俺も……合格通知持ってじゃないと、行かない。願掛け」
 「わかった……です」
 「何その変な喋り方は?」
 「うぅ」

 そのとき、ゆっくりと撫でてくれていた手が、背後に回されて――そして

 ギュウッッ

 「!!」
 
 私は初めて男の子に、いや男の人に抱きしめられていた。

 想定もしていなかった初めての事態に、私はパニックになる。