ちぃこと1

 俯いて、口を開かない私を余所に、傍に会ったポールにちょこんと腰かけたお兄さんはクスリと笑った。
 
 「こーら。不貞腐れた顔すんなよ」
 「うぅ……。だって、インフルエンザとか、罹ったことないし」
 「俺もない」
 「病気には、強いんですよ? 私」
 「俺もまぁ、強い方」
 「だったら!」

 そこまで言って顔を上げたけれど、背後から差す陽がお兄さんの顔を照らして表情が見えない。

 「でも、今年は分かんないだろ?」
 「そう、だけどっ。私は、私は……っ」 

 勢いで何かを口走りそうになって、ぐっと堪えた。

 言ってしまったら、目じりにたまった涙もこぼしてしまいそうだから。

 私は、グッと拳を握りこんでまた俯く。

 涙を零さないように。


 そしたら

 カタン

 と音を立てて、お兄さんが立ちあがって私に近づいてきた。

 影がゆっくりと私に重なる。
 

 1歩――

 「俺、お前に会うの楽しみだった」
 
 2歩――

 「おにぎり、美味しかったし。お前といると、すごく安らぐんだ……」

 3歩――

 「ホントは……毎日会いたいくらい」

 目の前に立って、今までで一番近くの距離に居た。

 そっと手があげられると、私の頭にその温もりが乗せられる。

 「合格発表、いつ?」

 言われた言葉にドキドキが止まらない私と最高に近い距離で、お兄さんの温もりと息遣いまで感じて心臓がおかしくなりそうだ。

 お陰でこぼれそうだった涙が引っ込んで、小さく手が震えた。

 「3月の……えっと、何日、だっけ。えと、えと―――」

 緊張のあまり、大事なことが頭から出てこなくてふわふわした。


 ――どうしよう!? ほんとに思いだせないっ!


 プチパニックを起こす私を見て、お兄さんはクスクス笑う。