ちぃこと1

 ぺっこりと凹んでしまった気持ちを湧きあがらせる力もなく、私は項垂れた。

 こんなにショックなことを言われて、テンションの上げ方を知ってる人がいるんだろうか。そう思うほどに。

 だって、私は、ココでしかお兄さんに、ううん。

 好きな人に会えないのに――

 「母さんがね、もう止めとけってうるさくて」
 「……え?」

 自分一人の殻に閉じこもりつつあった私は、突然横で話し始めたお兄さんに反応が遅れた。

 「いや、もう寒いだろ? それにインフルエンザも流行ってるし。わざわざ病気もらうかもしれないとこに行くなって、言われて」
 「あぁ……」

 言われてみれば、確かに……とは思う。

 でも理屈じゃない。

 現状がどうだから、とかじゃなくて。

 私はただ、お兄さんに会いたい。

 悔しさを滲ませてお兄さんを見ると、お兄さんは私を困った子を見るような目で見つめていた。

 「そんな顔、するなよ」
 「……」
 
 どんな顔なのか分からなくて、なんて切り返したらいいのかも分からなくて私はだんまりした。

 ちろりと見上げると、お兄さんははぁーっとため息をついた。

 「お前も。そういう事情だから、家で勉強しな?」
 「でもっっ」
 「受験は、待ってくれない」
 「う……ッ」

 真実だから、事実だから。

 ぐうの音も出なかった。

 涙が零れそうになる。

 でも今、お兄さんの前で流すわけにはいかない。

 私はまだ、気持ちに気付かれたくない。

 お兄さんに普通に接してほしいから。

 でも……会えなくなるなら、そんなこと言ってる場合じゃないの?

 いろんな思いがごちゃごちゃになって、私は俯いて唇を噛みしめた。

 初めて約束をして会えたのに。

 今日はすっごく幸せな日だったはずなのに――