ちぃこと1

 ドッと安堵の波が広がって体が弛緩する私を余所に、お兄さんは嬉しそうにお弁当をパカッと開いていた。

 「うーわー、卵焼き!? やっばい、うまそー!」

 漫画に表現したら、背景にキラキラが飛んでるな……という感じの喜びように、今朝の弟の姿が思い出された。

 うん、ありがとう弟よ。

 偉そうだったあの態度も、今では素晴らしかったとすら思える。

 「食ってい?」

 待てを言い渡された犬のような表情でお兄さんは私を見つめている。

 私はその様子にクスクスと笑いながら

 「どうぞっ」

 勢いよく勧めた。

 お箸を手にするなり、とてつもない勢いで手まりのおにぎりを口に放り込んだお兄さんは

 「んー! こへは、しゃへだっ」

 もぐもぐ言いながら嬉しそうに喋った。

 ――鮭、かな?

 「んまーい」

 満足げなお兄さんの様子に、私はにやけるのを押さえきれずに
 
 「頂きます」

 と言って、お箸に手を伸ばした。

 無言でお箸を持ちながら、イタダキマスの合掌をしたその時。

 「あれ……食ってなかった?」

 「あ、はい」

 「悪い! まじで、ごめん」

 ドンッと両手の平をテーブルについて、お兄さんが謝ってきた。

 いつかのメモみたいに、悪いとゴメンのコンビネーションで。

 そのことになぜだか笑いが込み上げてきた。

 「私がお兄さんと食べたかっただけなので、気にしないで下さい」
 
 両手をパタパタと顔の前で振って、ちょこっと俯いた。

 なんか、すっごくお兄さんと食べたがってたみたいな感じだ……って言ってから気がついたから。

 恥ずかしさに火照る頬を両手の甲でごまかすように擦ってから『たーべよっと』と言って、恥ずかしさをごまかして卵焼きを挟んだ。

 そしてパクリと口に放り込みもぐもぐと咀嚼する。

 その一連の動作を見たお兄さんは、さっきまでのテンションはいずこへ……と尋ねたくなるような雰囲気で、 はぁーってため息を吐いて両手で顔を覆って俯いた。