ちぃこと1


 「あれ? もしかして忘れた、とか?」

 急にフリーズした私に心配そうな表情を浮かべたお兄さんは、ちょっと焦り気味にそう尋ねてきた。

 いや、がっつりばっちり持ってきてるんだけど、だけど……

 あーもー!!

 悩んだって、どうしたって作ったのに仕方ないよ、ね?

 引かれたらもう2度とやらないってことで、しかも最悪来なければ2度と会わないから大丈夫!

 パニックを起こし過ぎた私は、勝手に逆切れモードのような状態になってバーンと勢いよく弁当を取りだした。

 「ぅおうっ」

 ビックリしたお兄さんは変な叫び声を上げた。

 そして私は……

 「お、お、お弁当! に、したん、デス。きょ、う……」

 末尾はごにょごにょした口調になりながら、なんとか言った。

 ――もうどうにでもなれ!!

 ギュッと目を瞑ったまま差し出して、私はお兄さんの表情を見なかった。

 引かれてたらどうしようと想像しただけで、恐い。恐すぎる。

 心臓がバクバク言ってるのを感じながら、ゆっくり瞼を開けるとポカーンとした表情のお兄さんが目に入った。

 「お、にい、さん?」

 予想していたどんな表情とも違って、それはそれで対処に悩む。

 数秒待った後、ようやく……氷が解けた様にお兄さんの表情は和らいできて、そして真顔で

 「コレ、君が?」

 やっとのことで、口が開いたみたいな感じで尋ねてきた。

 私は、その質問にブンブン頷いて肯定した。

 するとお兄さんはすっごく嬉しそうな顔で

 「やばい。弁当とかめっちゃ久しぶり! いいの?」

 「も、もちろん」

 英語の勉強ばかり最近していたせいか『イエス! オフコースッ』と言いそうになるのを寸でのところで止め、笑顔で答えた。

 どうやら私の心配は杞憂に終わったようで、ふーっと息を吐いた。