ちぃこと1


 お兄さんと二人きり。

 という状況にようやく気が付き、ソワソワして落ち着かなくなってきたころ……お兄さんは両手に缶を持って、戻ってきた。

 「こんな寒いとこでごめんな?」

 そう言いながら、コトリと私の前に缶を置く。

 ミルクココアだ。

 普段はブラック無糖を選ぶようなコーヒー派の私だけど、勉強の後、リフレッシュのために1杯ココアを飲むのが意外と好きだったりする。

 お兄さんにそれを伝えたこともなかったのに、それをチョイスしてくれたことがとても嬉しかった。

 何より飲み物が温かいことも。
 
 「いいんですか?」

 嬉しい半面、突然渡されると手を出して良いものかと考えてしまう。

 けれどお兄さんは当り前と言った顔した後、両手を合わせて頭を下げた。

 「寒いとこ呼び出してんのは俺。こんなもんしか出せなくて悪い」

 ってほんとに申し訳なさそうに言うから

 「じゃあ、いただき、ます」

 ニコリと笑って私は、遠慮なくプルタブに手をかけた。

 熱すぎるその缶が、この寒空の下では心地よい。

 幸いにも今日は日差しが射しているので、少しだけ漏れて入ってくる太陽の光が膝下に当たって温かい。

 冷えた手を温めるように缶を包むと、さっきのお兄さんの温もりが離れていきそうで少し残念な気がした。

 ゆっくりと一口飲んでゴクリと飲むと、それを見計らったようにお兄さんは口を開いた。

 「今日、学校でちょっと呼び出しがあってさ。あ、悪いことじゃないよ? 進路とかの関係で。で、ちょい図書館行くの遅くなった」

 悪いことの呼び出しだなんて予想もしてなかった私は、お兄さんのその断りにクスリと笑う。

 静かに勉強するお兄さんもいいけど、やっぱりこういうリラックスモードのお兄さんが好きだ、な……なんてっ。

 そんなことを考える自分が恥ずかしくなって、誤魔化しつつココアを一口啜った。