ちぃこと1

 気が乗らない時の勉強ほど、億劫なものはない。

 何度も時計を見て、何度もきょろきょろとあたりを見回すけれど、お兄さんは見つからなかった。
 
 お兄さんはいつも、ジーパンにロンT、その上にパーカーだ。

 目立ちすぎないシルバーのロザリオっぽいアクセサリーを付けていて、真面目そうなのに、それのせいで少し砕けた感じがする。

 そういう小さなオシャレっぽいところも、同い年の友達とはまた違ってカッコよく思っている。

 とかお兄さんの特徴をじっくりと思い出しながら再度見渡しても、やはり見つけられなかった。

 2つもお弁当、どうしよう……

 すっかり落ち込んだ状態で、時計を見たら12時50分だった。

 自習室に来ているほとんどの人間は休憩を終えて戻ってくるか、出て行ってしまった。

 お昼は最近12時20分くらいに食べている。

 それを我慢してここまで待ったけど……

 ――もう、無理だよ

 なんだか涙が出そうになりながら、自習室にいるのも嫌になってきて、私は帰ろうって決意した。

 こんな気持ちじゃ、ダメだ。

 私は日本史の教材を全て片づけると、鞄を持ち、席札を手にして席を立った。

 そして入口へとくるりと体を向けたその時。

 『ゴメン!』

 とでも言うように両手を合わせて私に頭を下げる人。

 いつもと違って……制服を着たお兄さんがそこに居た。

 「ぁ……」

 お兄さんが嘘じゃなくて、ちゃんと来てくれたんだってことが嬉しすぎて、小さく声を漏らすと同時に涙がじんわり込み上げてきた。

 慣れてきたって思ってる、ココに、静謐な空間であるこの自習室に来ること。

 それでもお兄さんがいるから、という安心感がどこかにあって、お兄さんが居ない自習室に不安を感じていた。

 だから――だからお兄さんを見て、ホッとして。

 それもあって涙が浮かんだ。