ちぃこと1



 少し掃除してから出ようと決めていた予定をあっさり覆して、私はお弁当作りに集中した。

 弟の案を採用して、5種類の手まりおにぎりに卵焼きとウインナー、それから昨晩の残りのほうれん草のおひたしを添えた。
 
 「姉ちゃん俺には!?」
 「ない」
 「えー、俺発案者なのにぃ?」

 とかなんとか叫ぶ声を背後に聞きながら

 「いってきまーーす!」

 家を飛び出した。

 鞄には、今日の教材と2つの同じお弁当。

 それから……ちょっと用意したプレゼント。

 ホクホクする心と、飛び跳ねたい気持ちでいっぱいの体を持て余し気味に、少し出遅れた分を巻き返すべくいつもより強めにペダルを漕いだ。

 お昼御飯の時になって、お母さんが「ほうれん草がない!」って叫んでいたのは私の預かり知らないところの話、だけど。



 寒さの中を全速力で走り、少し汗ばむくらいの体温で図書館に辿りついた。

 相変わらず無愛想なおばさんから札をもらい、自習室へと入る。

 今日は前回よりも人が多いみたいで、41番だった。

 ――通路側の端か……まぁ、悪くないけど。

 でもやたらと風が通りやすくてちょっと寒いんだよな、と思いながら札を机に置く。

 とりあえず向かいはお兄さんじゃない。

 隣はまだしばらく埋まらないだろうし、なんて思いながら室内を見回したけれど、お兄さんは見つからなかった。
 
 ――何か、あったのかな?

 思い起こしてみても、お兄さんはいつも私より早くに来ている。

 今日はお弁当なんて作ったから、いつもより出遅れたくらいだ。

 それなのにお兄さんが来てない。どうして?

 私は少し悲しい気持ちになった。

 でもそれだからと言って、勉強から逃げられるわけでもない。

 切なく落ち込む気持ちをなんとか収めて、きっと来ると祈りながら今日は日本史に取り掛かった。