けれど、その拒否の言葉と同時にお兄さんの顔を見ると、少し寂しそうな顔をしていた。

 どうして……?

 不思議に思ってみると、お兄さんは私の頭をグッと下げさせて、顔を見れなくしてしまった。


 「な、何!?」
 「ありがと」


 うろたえる私を置き去りに、謝辞を述べるお兄さん。
 私にはその謝辞の出所に見当がつかず、俯いたまま首を傾げた。

 「えと、えとー、んーーっと。何か、しましたっけ?」

 言いながら考えてみても何も思い浮かばなくて聞いてしまうあたりが子供。
 って思うけれど、お父さんがいつも素直が一番って口癖のように言うからついポロリと本音を漏らす。

 それを聞いて、お兄さんに押さえつけられていた手は頭から退いた。

 軽くなった頭がちょっと寂しいと思いながら顔を上げると、もういつものにこっと笑うお兄さんで……

 私の質問には答えてくれそうになかった。


 ただ

 「今度の日曜、来る?」

 って聞くから

 「うん、来ます。あーっと、おかか?」

 半笑いで尋ねると

 「うん、おかか」

 って言うから

 「私の、半分も食べたくせに」

 意地悪で返した。

 そしたら

 「あ、忘れてた」

 軽く言いながら、ポケットに手を突っ込んで何かを拳に閉じ込めて付き出した。

 「ん。あげる」

 私が手を出すと、コロンと落ちたのはいちごみるくの飴。

 「また日曜な。絶対来て」

 そう言って、私の頭をぽんぽんと叩くと、あっという間に去ってしまった。

 まるで、今日のこの時間が嘘だったみたいに。

 ぽつんと私は一人取り残された。

 でも……手のひらに残った飴は、お兄さんと触れあった証だった。