「はぁ……俺、やられそ」
「ほへ?」
すっかり緩みきっていた私は、お兄さんのその言葉にへんてこな返事をした。
「そういうの、反則だよなーほんとに」
「へ? え? なんの、ことを……」
「ん? いやなんでもない」
お兄さんが訳の分からない言葉の羅列を続けるので、私は思案顔で首を傾げる。
すると頭上にあったお兄さんの手と髪の毛が擦れて、しゃらっと鳴った。
それをきっかけにまた、わしゃわしゃっと派手にかき乱され、最後だと言う感じでポンと頭を軽く叩いてお兄さんの手は離れた。
ちょっと寂しい、かも……なんて思う間もなく、お兄さんから不思議なお願いをされた。
「ちょっと、そのおにぎり貸して」
「あ、うん、はい」
返事をしながら何だろうと思いつつも、さっきと同じようにもう一度お兄さんの前に差し出した。
「うーん。じゃ、お前食ってみて」
「私?」
「うん」
お兄さんは極真面目な表情を浮かべて私に食事を促した。
正直なところ、まだドキドキはする。
けれど、すでに一口食べてしまった私は強い。
目の前にして、一瞬抵抗の意を感じたものの、それ以上に真面目な態度のお兄さんに気圧されて、私はゆっくりとだけどおにぎりにもう一度齧りついた。
もぐもぐ……うん、美味しい。
こんな状況だと言うのに、やはり美味しさに顔が綻ぶ私はちょっと食に弱い。

