ちぃこと1



 「はぁ……俺、やられそ」
 「ほへ?」
 
 すっかり緩みきっていた私は、お兄さんのその言葉にへんてこな返事をした。

 「そういうの、反則だよなーほんとに」
 「へ? え? なんの、ことを……」
 「ん? いやなんでもない」

 お兄さんが訳の分からない言葉の羅列を続けるので、私は思案顔で首を傾げる。

 すると頭上にあったお兄さんの手と髪の毛が擦れて、しゃらっと鳴った。

 それをきっかけにまた、わしゃわしゃっと派手にかき乱され、最後だと言う感じでポンと頭を軽く叩いてお兄さんの手は離れた。

 ちょっと寂しい、かも……なんて思う間もなく、お兄さんから不思議なお願いをされた。

 「ちょっと、そのおにぎり貸して」
 「あ、うん、はい」

 返事をしながら何だろうと思いつつも、さっきと同じようにもう一度お兄さんの前に差し出した。

 「うーん。じゃ、お前食ってみて」
 「私?」
 「うん」

 お兄さんは極真面目な表情を浮かべて私に食事を促した。
 
 正直なところ、まだドキドキはする。

 けれど、すでに一口食べてしまった私は強い。

 目の前にして、一瞬抵抗の意を感じたものの、それ以上に真面目な態度のお兄さんに気圧されて、私はゆっくりとだけどおにぎりにもう一度齧りついた。

 もぐもぐ……うん、美味しい。

 こんな状況だと言うのに、やはり美味しさに顔が綻ぶ私はちょっと食に弱い。