「ごめんな。俺がおにぎり欲しいとか言ったから慌てさせて。とったり、しないから」
申し訳なさそうに、自分が悪いと言い始めるお兄さん。
それが逆に申し訳なくて、私はばか正直に本音を漏らしてしまった。
「違っ! これ、お兄さんが食べたから。だから、間接キ……、ち、ちがっ! あ、や、もっ、あぅ」
うっかり間接キスと言う単語をするりと漏らしかけて、私はそれを打ち消そうとして言葉がこんがらがった。
――恥ずかしい、恥ずかしすぎるよぉ……
私は、ありえないくらいに顔を真っ赤にしてうつ向いた。
お兄さんはごく当たり前におにぎりにかじりついた。だから、間接キスとかそういう認識は持ってなかったわけで。それなのに私一人がそんなことに舞い上がってた。
それが恥ずかしすぎて私はもう言葉も出ない。
私の恥ずかしい発言のせいで数秒時が止まって、お兄さんも固まってた。
どうしよう。
この空気の変え方すら、中学生の私にはハードルが高すぎて想像がつかない。
もういっそのこと、走り去ってしまう?
なんて、そんな現実逃避を考えたその時
「くっくっくっ! か、かわいっっ!!」
突如お兄さんは笑いだしたかと思えば、あーもーっとかって叫びながら、背にあった手を私の頭の上に置いて、わしゃわしゃかき乱した。
「わっ、わぁっ!?」
そんなお兄さんの行動にまた振り回されながら、顔が赤くなるのを感じて、また俯く。
乱暴にはじまったそれは、徐々に治まって最後は優しく撫でつけるように髪の上を流れていく。
もう恥ずかしいとか思う次元はとっくにすぎていて、私は久しぶりに誰かに頭を撫でてもらうというこの状況に、いつしか喜びを感じていた。

