顔が私の手元まで寄ってきて、私の方へ倒れる。

 ぐっと手に重みを感じて、お兄さんがおにぎりに齧りつくのが分かった。

 そしてその手が軽くなった時、ふわっとお兄さんの顔が上がると同時に、髪からシャンプーのにおいが鼻を掠めた。


 ――うわぁぁぁ……


 自分の手にあるものを人にあげる。

 なんて親鳥みたいなこと、6年生の弟ぐらいしかしたことのない私。

 今までなんの関心もなかったその行為が、対象者が変わっただけでこんなにドキドキすることだったなんて知りもしなかった。


 赤らむ顔を隠しきれず俯く私に



 「うわー。次はおかかにしよ~」



 ペロリと唇を舐めて言うお兄さん。

 何もかもが私には初めてのことで、頭がパンクし始めていた。

 そして、とても重大なことに気がついた。
 

 ――って、このおにぎり、私のだよね? さっき、食べた、よね?


 じゃあ、これって所謂。



 間接キス



 うーわーー!!!


 叫びたい気持ちを何とか脳内に留めて、私は更に顔を真っ赤にする。

 耳まで赤いと思う。

 すでに私が一口食べたから、お兄さんはもう間接終了済みで。

 だから次に私が口をつけたら、お互いに完全に間接キス。

 そう思ったらもう口がつけらんないって、食べるところを想像だけでも悶えた。