私が帰ることに気づいてくれたのかな? と思うと素直に嬉しい。

 ドキドキと高鳴る心臓を治めることも出来ないままに、お兄さんを見るとノートを指さしただけ。

 机の境目に置かれたノートは見づらくて手を伸ばして引き寄せてみる。

 ノートには

 『良いお年を。風邪、引くなよ』

 と書かれていた。

 私はそんな気づかいと、この静かな空間でのお兄さんとのやり取りがくすぐったくて、小さくフフッと声が漏れた。

 そのノートの下部には空白が合ったので、しまいかけた筆箱のチャックを開けて鉛筆を取りだす。
 
 私の通う中学校はシャープペンシル禁止をまだ貫いている学校で、常に鉛筆ばかり携帯している。
 
 お兄さんの角ばったボールペン字の下に、私は手を付いて鉛筆を走らせた。

 
 『お兄さんもね。また、来年!』
 
 
 なんて書こうかって悩んで『また、もう一度、おにぎり食べて欲しい』なんてふと浮かんだ。

 でも「また食べて」なんてそんなこと言える技量の無い私は、来年もまたって気持ちだけは伝えたくてそんなふうに書いた。


 顔を赤くしたままノートを机の境目に滑らせると、お兄さんはノートを手にとって私のメッセージにサラッと目を通す。

 それからふっと力を抜いて、微笑んだのが見えた。

 私はその表情にホッとしてぺこりと頭を下げる。顔を上げてお兄さんと目を合うと、にこりとお互い微笑んだ。

 それだけで飛び上がりそうな気持ちを押さえて、私は小走りになる足を止められずに図書館を出て自転車に跨った。


 12月最後の自習室。


 私の恋は走り始めた。