「やっ、あのっ、違くて! その、これ……私が、作ったけど、いいのかな? って……思って、です、ね。あの、ハイ――どぞっ!」
しどろもどろで、開封作業にマッタをかけて、新しいおにぎりを鞄から出して突きだした。
私のその勢いのある差し出し方に若干びっくりした表情を浮かべたお兄さん。
だけどすぐに喜びの表情へとシフトして
「ラッキー」
嬉しそうに私からおにぎりを受け取って、自分の手にある蒸しパンを差し出して私に握らせてくれた。
「ん、交換」
やたらと嬉しそうな表情を浮かべて私に笑顔を向ける。
そして、私ですらまだ2口しか入れていないのに、瞬時にアルミホイルとラップを取り外すと
「いただきますっ」
と言ってかぶりつき、一気に半分くらいのおにぎりがなくなっていた。
「んまっ! お前、コレうまい!」
右手に握るおにぎりを左で指さしながら、口はもしゃもしゃさせて喜ぶお兄さん。
私の表情は、そのお兄さんに圧倒されて苦笑ぎみだったけれど……内心は飛び上がらんばかりに嬉しかった。
自分が作ったものを、食べてくれた人が喜ぶ。それってこんなに幸せなんだって、苦笑した後小さくニヤけた。
それに、お前って呼ばれたのがなんだかこそばゆい。
名前も知らないんだから呼びようがないってだけなんだろうけど……お前って呼ばれたら親近感が湧くっていうか。
なんか他人って感じよりも、親しい感じがする。
だからってお前お前って呼ばれたらイラッとするけど。でも今のお兄さんの「お前」には、グッときた。
というより……
自分の作ったおにぎりを、嬉しそうに頬張るお兄さんに私は落ちた。
ぐらっと。
私は受験生で。
ココは自習室で。
なのに私は……この静謐な中で、恋をしてしまった。
誰かも知らない、目の前でおにぎりを喜ぶお兄さんに。

