同じベンチとはいっても、私の荷物を挟んで隣だからそれなりの距離はある。

 けれど、他に人はいなくて二人きりだと思うと少しドキドキしてきた。


 「パンでよければどうかなって思ったんだけど、余計なお世話だったね。あ、何か飲む?」
 

 いっつも静かで、聞いた声は『しぃー』だけだったお兄さん。
 
 そのお兄さんがペラペラと喋るから、私は驚いて言葉が詰まった。
 
 
 というより……お腹の音、聞かれてたんだやっぱり。
 
 
 ちょっとショックが大きい。
 
 けれどお兄さんは気にした様子もなく、立ち上がって自販機に100円玉を投入していた。
 
 私はおにぎりを口に入れることも忘れて、その光景をぼーっと見ていたら目の前に何かが飛び込んできた。

 
 「はい」
 
 「へっ!? えっ?」

 
 私は突然のことに声を上げるも言葉にならなくて、どうやらりんごジュースらしいソレとお兄さんの顔を交互に見た。
 
 しかし私の様子を見たお兄さんは、

 
 「こないだの詫び。時間、計って勉強してただろ? 邪魔して、ほんと悪かった」

 
 さり気なく、私にこのジュースは受け取る権利があるって言って来た。
 
 なんだかその気遣いがこそばゆくって、拒否できない。

 
 「ありがとう、ございます」
 

 知らない人からもらっちゃ駄目よ、なんて小さいころの親の言葉が脳裏を掠めたけれど、お兄さんの好意を断りたくなくて素直に受け取った。
 
 まさか、お兄さんからジュースをもらう日が来るとは……と思いながら、嬉しくて顔がにやける。