誰が言ったのかは記憶にないけれど……その誰かが言った「静謐」の意味を正しく使うなら、間違いなくこういう空間を指すんだろうな。
 
 なんて思いながら「45番」と言う数字を確認して机上に札を置いて、静かに椅子を引いた。

 ギギギギ

 小さくしか音を立ててないはずなのに、やけに音が響く。
 
 こんな風に、人がたくさん居るのに静かな空間であることが「なんか大人っぽい」と思いながら、私は緊張する心が誰かにバレやしないかとソワソワしながら席に着いた。


 ――――――


 事の発端は、その「静謐」とやらの発言をした誰かのせいだと思う。
 
 確か……そう「俺は、静謐な環境じゃないと勉強が捗らない! だから自分の部屋で静かにじゃないと勉強しない」とかなんとか大きな声で教室で言った。
 
 おそらく彼は、何かで『静謐』と言う単語を知って、それをひけらかすべく使いたかっただけに違いない。
 
 だから無理やり話の中で静謐という単語を織り込んだんだろうけど……
 
 聞かされた側の同級生がその単語を理解していなかったら、彼の知識の高さも無意味ではないだろうか?
 

 遠巻きに冷ややかな気持ちでその言葉を聞きながら、私は静かに意味を調べた。こんなことを思いながら調べたりする私が、最もいやらしいと言うことは自分自身よく理解している。 



 静謐(せいひつ):静かで落ち着いていること。また、そのさま。